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(2023年7月22日からカウント)


☆2023年7月21日の9条カフェでの報告
「広島G7サミットとロシアの核脅迫」
          フリージャーナリスト、今田真人




 筆者は2023年7月20日の、くにたち・9条カフェ(東京都国立市東9条の会)で、以下のレジュメに基づく報告をしました。それを紹介します。
 集会はZoomで実施し、10人が参加しました。
 私が最もいいたかったことは、レジュメ⑥の「私(今田)の意見」であり、「核兵器は最悪最大の非人道兵器である。核兵器の脅迫で他国を抑えつけようとしているのはG7ではなく、侵略者ロシアである。いまこそ国際世論を結集してロシアの核兵器使用の手をしばれ」ということです。
 核抑止力論に立っているからといって、「広島ビジョン」を全面否定する議論は、ロシアの核兵器使用の手をしばるという、緊急最大の目的からみて正しくない、という私の主張に、何人かから批判がありました。
 いまの日本国内の市民運動の中の対立点にもなっている問題であり、私たちの9条カフェでも、短い時間ながら「熱い議論」(参加者の声)になりました。
 絶対に広島・長崎を繰り返すなという一致点を大切に、事実に基づく分析的な議論を広げ、市民の間の「分断」を克服する一つの材料になればと願っています。
 当日配布したレジュメ(PDF版)は、下線の文字をクリックすればダウンロードできます。紙で読むほうがわかりやすいと思われる方は、PDFを印刷してお読みください。


【9条カフェへの報告1】
広島G7サミットとロシアの核脅迫
              2023年7月20日
                    今田真人(フリージャーナリスト)

①ロシアのウクライナへの侵略と核脅迫の経緯

★(これまでの前提的歴史)
~「旧ソ連圏で核兵器が配備されていたベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンの3カ国は1991年のソ連崩壊後、核拡散防止条約(NPT)に加盟英米ロが安全を保証することと引き換えに3カ国が放棄した核兵器は、90年代半ばまでにロシアに移管された」(毎日新聞2023年6月18日付)
~「旧ソ連の1共和国だったウクライナには、旧ソ連が1000発以上の核弾頭を配備していた。ソ連崩壊後、ウクライナがこれらの核を保有し続けるという選択肢もあった。しかし核保有国を増やしたくない米英ロはウクライナに、残された核の放棄と引き換えに安全を保障すると約束1994年12月にハンガリーのブダペストで開かれた欧州安全保障協力機構(OSCE)の首脳会議の際、ウクライナとの間で覚書を交わした。これが『ブダペスト覚書』である。…内容を簡単に要約すると、ウクライナが非核保有国として核兵器拡散防止条約(NPT)へ加盟、領土内に現存するすべての核兵器を廃棄する。その代わりに米英ロはウクライナの独立、主権と領土の保全を尊重し、もし外部から攻撃を受けたら安保理に持ち込み、解決を図ると約束していた。…しかしロシアは覚書について『2014年の政変(ユーロマイダン革命のことと思われる)で政権が変わった以上守る必要がない』として侵攻し、米英も直接の介入を避けた」(2022年7月、小林義久『国連安保理とウクライナ侵攻』P68・69)

★2014年2月27日 ロシアがウクライナのクリミアへ軍事侵攻

★2022年2月24日 ロシアがウクライナへの全面侵略戦争を開始

★2022年2月24日 ロシア・プーチンが侵攻直前の演説で核兵器使用を示唆
~プーチンの2022年2月24日のテレビ演説。「軍事分野に関しては、現代のロシアは、ソビエトが崩壊し、その国力の大半を失った後の今でも、世界で最大の核保有国の1つだ。そしてさらに、最新鋭兵器においても一定の優位性を有している。この点で、我が国への直接攻撃は、どんな潜在的な侵略者に対しても、壊滅と悲惨な結果をもたらすであろうことに、疑いの余地はない」(NHKオンライン2022年3月4日付記事)

★2022年9月27日 メドベージェフ前大統領が必要あれば核を使うと主張
~ロシアのメドベージェフ前大統領は9月27日、「ロシアは、必要があれば核兵器を使う権利がある。これは決して脅しではない」とSNSに投稿した。ロイター通信などが報じた。(朝日新聞デジタル2022年9月27日付記事)

★2022年12月7日 プーチン大統領がロシアは「狂って」はおらず、核兵器を最初に使うことはないと述べた
~ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12月7日、核戦争の脅威が高まっていると発言した。一方で、ロシアは「狂って」はおらず、核兵器を最初に使うことはないと述べた。ロシアの人権理事会の会合にビデオリンクで出席したプーチン大統領は、自国が攻撃された時のみ大量破壊兵器を使用すると話した。また、ウクライナでの戦争は「長い道のり」になるだろうと述べた。西側諸国は、プーチン氏が当初、侵攻を迅速に終わらせることを計画していたとみている。(BBCニュースJAPAN2022年12月8日付)

★2023年1月19日 メドベージェフ前大統領がウクライナへの戦車など強力兵器供与でも核兵器使用の可能性に言及
~ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は1月19日、「通常戦力によって核保有国を敗北させれば核戦争を引き起こす可能性がある」と述べ、戦車などの強力な兵器の対ウクライナ供与を検討している欧米側を強くけん制した。(共同通信1月19日付)

★2023年2月4日 メドベージェフ前大統領がクリミアが攻撃された場合、核兵器を含むあらゆる手段で報復すると発言
~ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は2月4日、2014年にロシアが併合したクリミア半島がウクライナから長距離兵器で攻撃された場合は核兵器を含むあらゆる手段で報復すると警告した。タス通信などが伝えた。(共同通信2023年2月4日付)

★2023年3月25日 ロシア・プーチン大統領がベラルーシへの核兵器配備を明らかにする
~ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は3月25日、同盟関係にあるベラルーシに戦術核兵器を配備することで、ベラルーシ側と合意したことを明らかにした。(BBCニュースJAPAN2023年3月26日付)
~「プーチン氏は3月、英国がウクライナに劣化ウラン弾を提供することへの対抗措置として、ロシア軍の管理下、ベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を表明」(毎日新聞2023年6月18日付)

★2023年6月16日、ロシア・プーチン大統領が自国国家の存続が危ぶまれなければ、核兵器使用を予見することはないと述べる
~「ロシアのプーチン大統領は(6月)月16日サンクトペテブルクで開かれた経済フォーラムで、同国の戦術核兵器がすでに隣国のベラルーシに搬入されたとの認識をしめし…。プーチン氏は自国の核態勢に変更はなく、ロシア国家の存続が危ぶまれなければ、核兵器使用を予見することはないと述べました。(ロイター)」(「赤旗」2023年6月18日付)

★2023年7月5日 メドベージェフ前大統領が核兵器で戦争終結可能と発言
~ロシアのメドベージェフ前大統領は7月5日、ウクライナ軍の反転攻勢に直面している同国侵攻作戦に関し「世界大戦を含むあらゆる戦争はすぐ終わらせられる。講和条約を結んだ場合、あるいは1945年の米国による広島と長崎への原爆投下と同じことをした場合だ」と述べた。(時事通信2023年7月6日付)

②広島G7サミット(2023年5月19日~21日)での議論

★核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン (2023年5月19日 於:広島)
~「歴史的な転換期の中、我々G7首脳は、1945年の原子爆弾投下の結果として広島及び長崎の人々が経験したかつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎と共に想起させる広島に集った。粛然として来し方を振り返るこの時において、我々は、核軍縮に特に焦点を当てたこの初のG7首脳文書において、全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する」「我々は、77年間に及ぶ核兵器の不使用の記録の重要性を強調する。ロシアの無責任な核のレトリック、軍備管理体制の毀損及びベラルーシに核兵器を配備するという表明された意図は、危険であり、かつ受け入れられない。我々は、ロシアを含む全てのG20首脳によるバリにおける声明【注1】を想起する。この関連で、我々は、ロシアのウクライナ侵略の文脈における、ロシアによる核兵器の使用の威嚇、ましてやロシアによる核兵器のいかなる使用も許されないとの我々の立場を改めて表明する。我々は、2022年1月3日に発出された核戦争の防止及び軍拡競争の回避に関する五核兵器国首脳の共同声明【注2】を想起し、核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならないことを確認する。我々は、ロシアに対し、同声明に記載された諸原則に関して、言葉と行動で改めてコミットするよう求める。我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」(外務省ホームページから)

【注1】ロシアを含む全てのG20首脳によるバリにおける声明――ロシアのウクライナ侵攻後初となる2022年11月15日から16日に、インドネシア・バリで開催されたG20サミットは、アメリカのバイデン大統領や中国の習近平国家主席、それにプーチン大統領の代わりに出席したロシアのラブロフ外相らが出席した。ゼレンスキー・ウクライナ大統領もオンラインで参加した。
~激しい議論の結果、出された「G20バリ首脳宣言」は、欧米やロシアなど立場が異なる各国の主張をそれぞれ反映させた内容となった。その内容は以下の通り。
「3.今年、我々は、ウクライナにおける戦争が世界経済に更なる悪影響を与えていることも目の当たりにした。この問題に関して議論が行われた。我々は、3月2日の国連総会決議ES―11/1(141か国が賛成、5か国が反対、35か国が棄権、12か国が欠席)においてロシアのウクライナ侵略を最も強い言葉で遺憾とし、同国のウクライナ領土からの完全かつ無条件での撤退を要求している国連総会や、国連安全保障理事会を含む他のフォーラムで表明してきた自国の立場を改めて表明した。ほとんどのG20メンバーは、ウクライナにおける戦争を強く非難し、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、また、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大、金融安定性に対するリスクの上昇といった世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調した。この状況及び制裁について、他の見解及び異なる評価があった。G20が安全保障問題を解決するためのフォーラムではないことを認識しつつ、我々は、安全保障問題が世界経済に重大な影響を与え得ることを認識する」(外務省ホームページ)
「4.平和と安定を守る国際法と多国間システムを堅持することが不可欠である。これには、国際連合憲章に謳われている全ての目的及び原則を擁護し、武力紛争における市民及びインフラの保護を含む国際人道法を遵守することが含まれる核兵器の使用又はその威嚇は許されない。紛争の平和的解決、危機に対処する取組、外交・対話が極めて重要である。今日の時代は戦争の時代であってはならない」(同上)

【注2】五核兵器国首脳の共同声明――ロシアのウクライナ侵攻直前、核兵器を保有する5カ国は2022年1月3日、「核保有国5カ国のリーダーによる、核戦争を防ぎ、軍拡競争を避けることについての共同声明」と題した文書を発表した。米ホワイトハウスが発表した英文の全訳は以下の通り。
~「中国、フランス、ロシア、英国、米国は、核保有国間の戦争を回避し、戦略的リスクを低減することが、我々にとって最も重要な責務だと考えている。我々は、核戦争に勝者はなく、決してその戦いはしてはならないことを確認する。核の使用は広範囲に影響を及ぼすため、我々はまた、核兵器について――それが存在し続ける限り――防衛目的、侵略抑止、戦争回避のためにあるべきだということを確認する。我々は、そうした兵器のさらなる拡散は防がなければならないと強く信じている。我々は、核の脅威に対処することの重要性を再確認し、二国間、多国間の核不拡散、核軍縮、軍備管理についての合意と約束を維持、順守することの重要性を強調する。我々は、核不拡散条約(NPT)の義務を果たす。そこには『核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する』との第6条の義務も含まれる。我々はそれぞれ、未承認の、あるいは意図しない核兵器の使用を防ぐため、国家としての措置を維持し、さらに強化するつもりでいる。我々は、我々が以前出した、非標的化についての声明についての有効性を繰り返し強調し、我々のいかなる核兵器も、お互いの国家、あるいは他の国家を標的としたものではないことを再確認する。我々は、全ての国家にとっての安全保障が損なわれずに、『核なき世界』を実現するという究極の目標に向け、軍縮の進展により資する安全保障環境の創出を、全ての国家とともに協力したいという我々の願望を強調する。我々は、軍事的対立を避け、安定性と予測可能性を高め、相互の理解と信頼を増大させ、誰の利益にもならず、誰をも危険にさらす軍拡競争を防ぐため、二国間、多国間の外交的アプローチを引き続き模索するつもりでいる。我々は、お互いの安全保障上の利害と懸念を相互に尊重、認識しつつ、建設的な対話を追求する決意である」(朝日新聞デジタル2023年1月4日付)

★原爆資料館を訪れたG7サミット各国首脳の記帳(2023年5月19日)
・米国(核保有国)バイデン大統領「資料館の物語が、平和な未来を築く義務を思い出させてくれるように。核兵器を永久になくせる日に向けて共に進もう
・英国(核保有国)スナク首相「人々の恐怖と苦しみは、どんな言葉でも言い表せないが、心と魂を込めて言えるのは繰り返さないということだ
・フランス(核保有国)マクロン大統領「感情と共感の念をもって広島の犠牲者を追悼し、平和のために行動することだけが私たちに課せられた使命だ
・ドイツ・シュルツ首相「強い決意で平和と自由を守っていくとの約束を新たにする。核の戦争は決して再び繰り返されてはならない
・カナダ・トルドー首相「多数の犠牲になった命、被爆者の声にならない悲嘆、広島と長崎の人々の苦悩に、厳粛なる弔意と敬意を表す
・イタリア・メローニ首相「闇が凌駕するものは何もないということを覚えておこう。過去を思い起こし、希望に満ちた未来を共に描こう」
・日本・岸田文雄首相「歴史に残るG7サミットの機会に議長として各国首脳と共に『核兵器のない世界』をめざすためにここに集う」
   (以上は毎日新聞2023年5月21日付から。外務省発表の仮訳を要約したものという)

★急遽来日しG7サミットに参加したウクライナのゼレンスキー大統領の会見要旨全文(5月21日、原爆資料館を訪問したあとで)
~「親愛なる日本国民の皆さん。平和を大切にする世界の皆さん。私は(原爆の強烈な熱線で残った)『人影の石』となる危機に陥った国から来た。人類は長い歴史で多くの命を戦争で失った。人が人を死なせてきた。人類の歴史から戦争をなくさなければならない。今、ウクライナは破滅的な戦争の中心にある。侵略者はウクライナ人を支配下に置くだけでなく、ウクライナ人そのものが存在しないと世界にうそをついている。ウクライナ人が勇敢でなければ、ウクライナがあった所に人影の石だけが残っていたかもしれない。敵がウクライナに使っている武器は核兵器ではないが、全焼したウクライナの町は広島の町、原爆資料館を訪れた時に見た写真に似ている。数万人がいた所に残るのは灰とがれきだ。今の広島は再建された。私たちはウクライナの再生を夢見ている。領土奪還が夢だ。『(ウクライナの)北方領土を奪還したのと同様、東と南の領土も奪還したい。ロシアで捕虜となった軍人、民間人、強制移住させられた大人と拉致された子どもを帰還させたい。勝利と、その後の平和が夢だ。ロシアは文明的なものを全て破壊した。1年前からわが国にある欧州最大の原発が占拠されている。ロシアはテロ国家だ。原発を楯にしてウクライナの町を攻撃するのもロシアだ。こうした恐ろしい犯罪を無視することはできない。ロシアの悪と愚かさに対処しない限り、世界が廃墟になる。ロシアが世界最後の侵略国になるように。この戦争が終わり、世界平和が続くために。自分たちのため、子どものため、孫のために平和がほしい。人影の石が資料館でしか見ることができなくなるように。国境が認められるように。広島では今、街角にウクライナの国旗の色が見えるが、ウクライナに対する信頼の表れだ。日本の皆さん、岸田文雄総理、ありがとう。戦争の犠牲になった全ての人が安らかに眠れるように。平和になるように。(共同)」(東京新聞2023年5月22日付)


=原爆資料館(広島平和記念資料館)の本館で。2023年7月5日、筆者撮影
~「人影の石――爆心地から260m/紙屋町 この石段は、住友銀行広島支店の入口階段を切り出して移設したもの。銀行の開店前に階段の腰掛けていた人は、近距離で原爆がさく裂し、逃げることもできないままその場で死亡したものと思われる。原爆の強烈な熱線により階段は白っぽく変色し、腰掛けていた場所が影のように黒くなって残った」(2020年12月発行『広島平和記念資料館総合図録』P29)
〈注〉なお、原爆資料館の東館の展示場には、2017年に国連で採択された核兵器禁止条約の説明コーナーがある。サミット参加者がこれを見たかはわからない。筆者が今夏に確認した(下の写真)


=2023年7月5日、筆者撮影

③分れるG7サミットやゼレンスキー大統領来日への評価

《評価意見》
・広島県原爆被害者団体協議会(県被団協)=原水禁系=の箕牧智之理事長(81)「(ゼレンスキー氏の広島訪問について)広島での核兵器の惨状を見る絶好の機会だった。今のウクライナと重ね、核兵器の被害が起きたら大変なことになると学んだだろう」(毎日新聞2023年5月22日付から)
・広島県原爆被害者団体協議会(県被団協)=原水協系=の佐久間邦彦理事長(78)「さまざまな国の首脳が原爆資料館に行ったのは良かった。しかし、核兵器廃絶に向けての実質的な議論が進んでいないと感じ、がっかりした」(毎日新聞2023年5月22日付から)
・東野篤子・筑波大教授「ウクライナがロシアによる核の脅威にさらされるという今の局面で、核をめぐる議論をできたことは評価できる。ゼレンスキー大統領が対面で参加したことで注目が集まり、『核を絶対に使ってはならない』という強いメッセージを被爆地の広島から出せた。ゼレンスキー氏が広島に来た目的は2つある。1つはグローバルサウスの代表格であるインドやインドネシアなどの首脳との会談だ。ウクライナ側が重視する和平の条件を直接伝えて、相手の反応を見ることができた。特にインドのモディ首相との対話では、一定の意思疎通ができたとされる。首脳会談でゼレンスキー氏の口から和平に向けた譲れない条件を伝えた上で、モディ氏から『解決のためにできることは何でもする』という言葉を取り付けた。ウクライナ側は大きな外交成果ととらえているだろう。欧米製戦闘機の供与や訓練も主目的の1つだった。米国製F16戦闘機の導入は時間がかかり、ロシア軍への反転攻勢に間に合わない。中長期的な視点で、空軍力を構築するために、戦闘機導入の道筋をつけられたことには大きな成果といえるだろう。ゼレンスキー氏が今春から続けてきた外交攻勢は、G7をもって当面は最後になりそうだ。大規模な反転攻勢が始まれば、国外に出て行く場合ではなくなるからだ。今後は国内での対応に集中していくとみられる」(朝日新聞2023年5月22日付から)

《批判意見》
・カナダ在住の被爆者、サーロー節子さん(91)「(来日して記者会見)大変な失敗だったと思う。核軍縮に関して市民と政府が一緒になって前進させようという機運が生まれただろうか。私はそれを感じていない。(広島ビジョンには)核兵器禁止条約など大切なものがなかった」(毎日新聞2023年5月22日付から)
・日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の木戸季市事務局長(83)「核抑止(の前提)に立った議論がされ、戦争をあおるような会議になった」。同協議会の児玉美智子事務局次長(85)は「(ゼレンスキー氏の言動について)武器の供与(の約束)を広島でしてほしくなかった。兵器で命は守れない」(毎日新聞2023年5月22日付から)
・日本共産党の志位委員長の談話「被爆地から核に固執する宣言は許しがたい――『広島ビジョン』は、『核兵器のない世界』を言葉ではのべているが、それは『究極の目標』と位置づけられ、永久に先送りされている。何より重大なことは、核兵器は『侵略を抑止し、戦争と威圧を防止する』と『核抑止力』論を公然と宣言していることである。『核抑止力』論は、いざという時は、核兵器を使用し、広島・長崎のような非人道的惨禍を引き起こすことをためらわない議論である。こうした立場を被爆地から発したことは、被爆者と被爆地を愚弄するものであり、決して許すことはできない。…」(「赤旗」2023年5月21日付から)。同じく同委員長の談話「限界と矛盾がいよいよ深刻に――G7サミットについて…被爆者のサーロー節子さんは、『自国の核兵器は肯定し、対立する国の核兵器を非難するばかりの発信を被爆地からするのは許されない』と語ったが、この批判は、G7広島サミットの本質をズバリ言い当てたものである。『核抑止力』論の根本的な見直しと、核兵器禁止条約に正面から向き合う姿勢が、G7諸国に強く求められている。…世界の平和秩序をめぐって、G7広島サミットが、『ロシアによるウクライナに対する侵略戦争』を強く非難したこと、世界のいかなる場所においても『力による一方的な現状変更の試み』に反対したことは当然である。同時に、G7諸国が、これらの動きに、軍事ブロックの強化で対応していることは、世界の分断をより深刻にし、軍事対軍事の危険な悪循環をつくりだしていることを、きびしく指摘しなければならない。…」(「赤旗」2023年5月22日付から)

④マスコミの論調

・朝日新聞社説「広島サミット閉幕 包摂の秩序構築につなげよ」(2023年5月22日付)
「ロシアが核の脅しを繰り返し、核戦争が現実味をもって語られる今こそ、被爆の惨禍を発信して来た広島でサミットを開く意味があったのは、いうまでもない核保有国とその傘下の国の首脳が慰霊碑にこうべを垂れ、十分とはいえなくとも被爆の実相に触れた意義はある。だが、『核なき世界』の理想に向けて現実を近づける具体的な道筋は提示されなかった。首脳声明では『現実的で実相的なアプローチ』の名のもとに、核抑止の維持が正当化された

・毎日新聞社説「国際秩序とG7――平和創出にこそ指導力を」(2023年5月22日付)
~「ロシアの侵略を受け、核使用の脅しにさらされるウクライナ。戦時下の大統領が電撃来日し、被爆地を訪れた。世界に発した『不戦』のメッセージは重く、大きい。広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕した。インドなど招待された新興国や途上国も交えた討議のテーマは『平和』の希求である。…(軍事的緊張や資源価格高騰など世界の混迷の)根源にあるのはロシアの軍事侵攻だ。ウクライナのゼレンスキー大統領は各国首脳と会談を重ね、ロシア軍を撤退に追い込むためにさらなる支援を求めた。…ロシアに対して各国が結束し、対抗する意思を示した意義は大きい。ロシアと経済関係が深いインドのモディ首相も『戦争の解決に取り組む』と表明した。」

・東京新聞社説「国際秩序立て直し図れ 広島サミットを終えて」2023年5月22日付)
~「核リスクが高まるさなか、先進7カ国(G7)の首脳が78年前の原爆の惨状に目を向けた。ウクライナ戦争の和平に向けて議論し、転換期にある国際社会の先行きを考える―。重いテーマが重なった広島サミットが終わった。首脳声明では、ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナへの『揺るぎない支援』を強調し、急遽駆けつけたゼレンスキー大統領への連帯を表明した。米国の覇権が揺らぐ中、G7が結束して国際秩序の立て直しを図る意思を示したものだ。…核廃絶に至らないと人類破滅の危険は消えない。被爆地に一同に会したG7首脳は『核軍縮に関する広島ビジョン』を発表したが核抑止力論が前提であり、岸田文雄首相をはじめG7首脳に『核なき世界』に本気で取り組む覚悟があるのか疑わしい。核拡散防止条約(NPT)は核保有を認める米英仏中ロに核軍縮交渉を義務付けるが、その責任はないがしろにされ、多くの新興国・途上国が参加する核兵器禁止条約も核保有国は拒んでいる

・読売新聞社説「サミット閉幕 国際秩序守る強い決意示した」(2023年5月22日付)
~「世界の主要国とウクライナの首脳が一堂に会して、ロシアの侵略からウクライナを守り、国際秩序を維持する決意を示した意義は大きい。これを国際社会の結束につなげたい。…21日のG7会合でゼレンスキー氏は「問題は、我々が防空システムをいくつ持っているかだ」と述べ、追加の軍事支援を求めた。ウクライナが要望していた米国製の戦闘機F16は、欧州各国が供与する見通しとなった。西側はこれまで、ロシアを過度に刺激するとして、攻撃兵器の供与に慎重だった。侵略が長期化していることが、方針転換の理由だろう。F16の供与は、戦況を大きく変える可能性がある。ロシアは『事態をエスカレートさせる』と反発しているが、事態を悪化させている責任が、軍の即時撤収や停戦に応じない露側にあるのは明白だ。…新興国や途上国には、先進国への反発や、中露との軍事・経済関係の重視など、欧米と距離を置く個別の事情がある。だが、ロシアの侵略のような、国際法を踏みにじる行動を容認すれば秩序が崩れ、自国の安全も将来、脅かされることになる。ゼレンスキー氏の悲痛な訴えを直接聞いた国々には、G7と協力し、対露制裁に加わってもらいたい。…プーチン露大統領は、ウクライナに核の脅しをかけている。ゼレンスキー氏やG7首脳が被爆地から発した様々なメッセージを、プーチン氏は重く受け止めるべきだ。G7首脳は、ロシアにウクライナからの即時・無条件の撤収を求めることを柱とした首脳声明を発表した。ロシアに武器を供給する第三国に支援の停止を求め、従わない場合は『深刻な代償』が伴うと警告した。
岸田首相は閉幕後の記者会見で、『G7とウクライナの揺るぎない連帯を世界に示すことができた』と強調した」

・産経新聞主張「広島サミット閉幕 秩序の維持へ結束示した ウクライナ支援の強化図れ」2023年5月22日付)
~「先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が閉幕した。ロシアはウクライナ侵略を続けている。中国は南・東シナ海などで力による現状変更を試みている。中露、北朝鮮の核の脅威は高まっている。厳しい国際情勢に対処していくため、G7の結束が今ほど求められるときはない。G7首脳声明は、ロシアに抗戦するウクライナに対し、必要とされる限りの支援を約束した。世界のいかなる場所でも力による現状変更に強く反対するとした。グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国との連携を重視し、『大小を問わず全ての国』の利益のため、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するとした。核軍縮に関する広島ビジョンもまとめられ、ロシアの核威嚇と核使用に反対し、中国の核戦力増強に懸念を表明した。いずれも世界の平和と秩序の維持に責任を持つべきG7として必要な表明で結束を示した。今後、ウクライナ支援の強化などを通じ、結束の固さを証明していくべきだ。それにはG7議長国の日本も殺傷力を持つ兵器の提供を実現するときである。ウクライナのゼレンスキー大統領は急遽(きゅうきょ)来日し、サミットに対面出席した。グローバルサウスの代表格で、ロシアに融和的なインドのモディ首相と会談するなど、積極的に外交を展開した。ロシアの侵略が成功すれば、法の支配に基づく国際秩序は瓦解(がかい)する。それはグローバルサウスの国々にとって最悪の事態になるとG7も粘り強く説き、ロシア包囲網への同調を募っていくべきだ

⑤世論調査

・毎日新聞の全国世論調査(2023年5月23日付)
~毎日新聞は5月20、21の両日、全国世論調査を実施した。岸田内閣の支持率は45%で、4月15、16日実施の前回調査(36%)から9ポイント上昇した。不支持率は46%で、前回調査(56%)比10ポイント下落。支持率と不支持率が拮抗(きっこう)した。広島で5月19~21日に開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)での外交上の成果が好感された模様で不支持率が支持率を逆転した2022年8月以降、最も高い支持率となった。
G7広島サミットで各国首脳が平和記念公園を訪れたことについては、「評価する」が85%を占めた。「評価しない」は9%、「わからない」は6%だった。

・毎日新聞の全国世論調査(2023年6月29日付)
~6月17、18日の毎日新聞全国世論調査で支持率が33%に急落した岸田内閣。無党派層に限った内閣支持率を算出したところ、更に厳しく11%だった。岸田文雄首相は2024年秋の自民党総裁選での再選を見据えて衆院解散・総選挙の時期を探るとみられるが、無党派層からの不人気ぶりは解散戦略にも影響を及ぼす可能性がある。

⑥私(今田)の意見~「核兵器は最悪最大の非人道兵器である。核兵器の脅迫で他国を抑えつけようとしているのはG7ではなく、侵略者ロシアである。いまこそ国際世論を結集してロシアの核兵器使用の手をしばれ」

広島サミットは、G7各国首脳や、被侵略国のゼレンスキー大統領を被爆地に招き、原爆資料館などの被爆の実相を直接見聞してもらった点で、現在の世界情勢で緊急の課題である、ロシアのウクライナへの核兵器使用の手をしばるための大きな力を発揮した

現在のロシアの核兵器使用の脅しは、侵略国が被侵略国を屈服させることを目的にしている点で、第二次世界大戦で米国が行った広島・長崎への原爆投下とは根本的に違う。大戦中の日本は、国際世論を無視しアジアへの侵略を強行する軍国主義大国だった。日本が侵略をせず、あるいは、ポツダム宣言【注】を早期に受諾していれば、広島・長崎への原爆投下はなかった。

核抑止力論を肯定しているからという理屈で、広島サミットの成果を全否定するのは、おかしい。核抑止力論には、いろいろなバリエーションがある。核抑止力論を批判するあまり、侵略国ロシアと被侵略国ウクライナを同列に非難することも、おかしい。核兵器版の「どっちもどっち論」になってはいけない。核兵器の脅迫で他国を抑えつけようとしているのはG7ではなく、ロシアである。敵を間違えてはいけない。広島ビジョンが打ち出した「ロシアによる核兵器の使用の威嚇、ましてやロシアによる核兵器のいかなる使用も許されない」とする宣言は、核抑止力論という前提に立っているとはいえ、核兵器の非人道性の告発の広がりから国際社会が勝ち取った核兵器禁止条約の趣旨と対立させてはならないし、現実の国際的運動の中で両立・統一していかなければならない。

・広島・長崎の悲惨な被爆体験の告発は、被侵略国ウクライナの抵抗・自衛戦争の意思をくじくためのものであってはならない。ロシアのやり方は、侵略者が被侵略者を核兵器で脅すと言う点で、前代未聞の核脅迫である。現状勢下での核兵器の非人道性の告発は、侵略者ロシアに集中してこそ、意味がある。ロシアがウクライナに核兵器を使用してしまった後に、たとえ核兵器廃絶が実現できても、それはけっして歓迎できないからだ。核兵器の全面禁止・廃絶(核兵器禁止条約)はもちろん急がれる最終的目標だが、現状勢下では、侵略者ロシアの核兵器使用を止めることは、それにもまして、緊急で最重要な課題である

【注】ポツダム宣言(外務省訳を現代漢字・ひらがな書きに直す。右からの縦書き文書)=出典、国会図書館HPの特集「日本国憲法の誕生」の「憲法条文・重要文書」から=
1945年7月26日 米英支三国宣言
「5、吾等の条件は左の如し
吾等は右条件より離脱することなかるべし右に代る条件存在せず吾等は遅延を認むるを得ず
6、吾等は無責任なる軍国主義が世界より駆逐せらるるに至る迄は平和、安全及正義の新秩序が生じ得ざることを主張するものなるを以て日本国国民を欺瞞し之をして世界征服の挙に出ずるの過誤を犯さしめたる者の権力及勢力は永久に除去せられざるべからず
7、右の如き新秩序が建設せられ且日本国の戦争遂行能力が破砕せられたることの確証あるに至るまでは連合国の指定すべき日本国領域内の諸地点は吾等の茲に指示する基本的目的の達成を確保するため占領せらるべし
8、『カイロ』宣言の条項は履行せらるべく又日本国の主権は本州、北海道、九州及四国並に吾等の決定する諸小島に局限せらるべし
9、日本国軍隊は完全に武装を解除せられたる後各自の家庭に復帰し平和的且生産的の生活を営むの機会を得しめられるべし
10、吾等は日本人を民族として奴隷化せんとし又は国民として滅亡せしめんとするの意図を有するものに非ざるも吾等の俘虜を虐待せる者を含む一切の戦争犯罪人に対しては厳重なる処罰加へらるべし 日本国政府は日本国国民の間に於ける民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障礙(しょうげ、障害の意)を除去すべし 言論、宗教及思想の自由並に基本的人権の尊重は確立せらるべし
13、吾等は日本国政府が直に全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し且右行動に於ける同政府の誠意に付適当且充分なる保障を提供せんことを同政府に対し要求す 右以外の日本国の選択は迅速且完全なる壊滅あるのみとす

⑦広島サミット後に新たに起こった考えさせられる事態と問題点

・ウクライナ南部のカホフカ水力発電所のダム決壊(2023年6月6日)
~「国連は(6月)18日、ウクライナ南部で発生したダム決壊に関し、ロシア側が実効支配する地域で国連の支援活動が依然として認められていないとして、ロシア政府を非難する声明を出しました」(毎日新聞2023年6月20日付)
~問題点として「自然決壊ありえずロシア破壊工作」(米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)の報道などがあるが、依然として決壊の原因は不明のままで、大きな被害が発生。ただ、ウクライナの反転攻勢を妨害するためのロシア側犯行説が濃厚。

・アフリカ7カ国首脳のウクライナ・ロシア訪問と和平案提案(2023年6月16・17日)
~「10項目の和平案。1.外交による戦争終結。2.交渉の早期開始。3.双方による緊張緩和。4.国連憲章に基づく主権尊重。5.全当事者の安全保障。6.穀物・肥料の輸送保証。7.戦争被害者への人道支援。8.捕虜交換と子ども帰還。9.戦後復興支援。10.アフリカとの協力(時事)」(「赤旗」2023年6月19日付)
→「ゼレンスキー大統領はロシア軍撤退が交渉入りの条件だと主張」(同)
→「プーチン氏は『交渉しないと宣言したのはウクライナの方だ』と述べ、ゼレンスキー政権への非難に終始」(同)
~問題点として、和平案に「ロシア軍撤退」が明確には盛り込まれていない(同)
~「プーチン大統領は…アフリカ側の取り組みを評価しながらも、ウクライナが和平交渉を進める姿勢を見せていないと主張した。ロシアは和平案を『実現するのは難しい』(ペスコフ露大統領報道官)との立場だ」(毎日新聞2023年6月19日付)

・ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏らによる「反乱」とその終息(2023年6月23日~)
~「プリゴジン氏は(6月)23日のビデオ・メッセージで、ウクライナへの侵略の『大義』に踏み込みました。『国防省が、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)とともにロシアを侵略しようとしていると、国民と大統領をだまして戦争を始めさせた』―ウクライナがロシアに侵攻しようとしていたから戦争に踏み切ったとするプーチン大統領のこれまでの説明を、否定する発言です。…腐敗・汚職、人命軽視、戦争の正当性のなさ、プリゴジン氏が軍の問題とするのは、実はプーチン政権そのものへの批判に直結します。プリゴジン氏の部隊撤退表明、ベラルーシへの亡命の事情が何にせよ、プーチン政権そのものへの国民の信頼は揺らぎ始めています」(「赤旗」2023年6月28日付)

・米政府がウクライナへクラスター弾の供与方針を決める(2023年7月6日に米メディアが報道)
~「英国のスナク首相は(7月)8日、バイデン政権によるウクライナへのクラスター弾供与について否定的な見解を示した。スペインやカナダといった、ウクライナ支援で米国と結束してきた他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国からも批判の声が上がっている。クラスター弾は、紛争後も不発弾が民間人に被害を及ぼすため、日本を含む100カ国以上が加盟するオスロ条約で使用や製造が禁止されている。米露やウクライナは参加していない」(毎日新聞2023年7月11日付)
~「ロシアがウクライナ北東部の都市ハルキウで、広く禁止されているクラスター弾を使い、無差別な砲撃で何百人もの民間人を殺害しているとする調査報告書を、人権団体アムネスティ・インターナショナルが(2022年6月)13日、公表した」(BBCニュースJAPAN2022年6月13日付)
→問題点。非人道兵器は自国防衛のためといえども使用すべきではない。ただ、ロシアはこの間、ウクライナ侵略の中で、クラスター弾をなかば公然と使用してきている。被侵略国のウクライナだけを非難するのは、おかしい

・北大西洋条約機構(NATO)が首脳会議を開き、首脳声明を発表(2023年7月11日・12日)
→首脳声明(宣言)の問題点。
~「加盟国の首脳らは(7月)11日、共同声明を採択した。声明は『ウクライナの未来はNATOにある』と言及し、将来的にウクライナがNATOに加盟することを強調した。ただ、加盟実現に向けた具体的なスケジュールは示されず、より明確な約束を求めるウクライナ側に不満を残した。複数年の支援プログラムはNATO、ウクライナ両軍の相互運用性を高めるほか、燃料や医薬品、地雷除去装置なども提供する。ウクライナとの協議枠組みでは、これまでの『委員会』に代わり『理事会』を設立し、ウクライナがNATOのより重要な意思決定に関与できるようになった。12日に初会合が開かれ、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加した。その後、ゼレンスキー氏はNATOのストルテンベルグ事務総長と共同記者会見に臨み、『首脳会議の結果には満足しているが、(加盟への道筋を確約する)NATOからの招待があれば理想的だった』と語った。ウクライナの加盟問題では、軍事的、政治的な加盟基準を満たすかを判断するための『加盟行動計画』の手続きが短縮された。しかし、本格的な加盟交渉は『条件が満たされた場合』にのみ開始される。ロシアとの戦争状態が続く限り、進展は難しいとの見方が強い。ロシアとの長期的な対立を想定し、NATO自体の防衛力の強化も急ぐ。首脳会議では、冷戦終結後、初めてとなる大幅な地域防衛計画の見直しを承認。新たな計画では、昨年の首脳会議で合意した30万人規模の即応部隊を軸に、欧州東部の防衛体制を増強する。また、加盟国の防衛費については、国内総生産(GDP)比2%が目標と定められていたが、これを『最低2%』に引き上げることも決めた」(毎日新聞2023年7月13日付)

~「核戦力を誇示し核禁条約を敵視――(7月)11日発表された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の首脳宣言は自らの核戦力を誇示する一方、核兵器禁止条約について『同盟の核抑止政策と対立し、矛盾し、相いれない』と述べ、『現在の安全保障環境を考慮していない』など敵視の姿勢を鮮明にしました。宣言は、ロシアの核戦力強化と近代化、核兵器使用の可能性に言及するなどの脅迫を非難し、中国が核兵器を急速に拡大し多様化させていると警告しています。一方で、NATOの核戦力について『平和を維持し、脅迫を防ぎ、侵略を抑止するためには、核兵器が唯一無二の存在だ』と強弁。米国の戦略核戦力を『同盟の安全保障の最高の保障である』との従来の立場を繰り返し、『NATOの核戦力の近代化継続と同盟国の核戦力の柔軟性と適応性を高める計画を更新する』と、核軍拡をすすめる方針を示しました。核兵器禁止条約についての記述は、同条約発効後最初となった2021年のブリュッセルでの首脳会議では『NATOの核抑止政策と相いれない』となっていました。今回は『対立し、矛盾し、相いれない』と表現を強めました。また、宣言は、21年のコミュニケ同様、NATOパートナー諸国や他のすべての国に対し、『禁止条約が核不拡散条約を含む国際平和と安全保障に与える影響について現実的に考えるよう呼び掛ける』とけん制しています。22年の核兵器禁止条約第1回締約国会議(ウィーン)には、NATO加盟国のドイツ、オランダ、ベルギー、ノルウェー、当時未加盟だったフィンランド、スウェーデンがオブザーバー参加NATOパートナー国では、オーストラリアがオブザーバー参加し、非核政策を国是とするニュージーランド【注・同国もNATOパートナー国。ちなみに日本も同パートナー国】は同条約を批准しています」(「赤旗」2023年7月14日付)

・ロシアがウクライナ産の穀物輸出に関する合意を停止(2023年7月17日)
~「ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる、ロシアとウクライナの合意について、ロシア大統領府は(7月)17日、『合意の履行を停止した』と発表しました。国連とトルコの仲介によって、去年7月から続いてきた輸出の枠組みが停止された形で、世界的な食料危機への懸念が一層高まるとみられます。ウクライナ産の農産物の輸出をめぐっては、1年前の去年7月に、トルコと国連の仲介で合意し、その後、合意期限は3度にわたって延長されました。しかし、ロシア側はロシア産の農産物などの輸出が、欧米側の制裁措置によって滞っていると主張し、次の合意の期限が(7月)17日に迫る中、期限の延長に応じない構えを示していました」(NHKオンライン2023年7月17日付)

⑧日本の大軍拡政策の問題

・「安保3文書」の閣議決定(2022年12月16日。敵基地攻撃能力の保有など)
~国家安全保障戦略(外交・防衛の基本方針、10年程度の指針。今回初めての改定)、国家防衛戦略(旧「防衛計画の大綱」、日本の防衛力整備の指針で、10年程度の期間を念頭に防衛力のあり方や保有すべき水準を規定)、防衛力整備計画(旧「中期防衛力整備計画」、前記の「大綱」に基づいて具体的な装備品の整備の規模や防衛費の総額などを定めたもの)。いずれも法律ではなく閣議決定文書(内閣官房のホームページ「国家安全保障戦略について」にそれぞれ全文を掲載)

~「ロシアによるウクライナ侵略により、国際秩序を形作るルールの根幹がいとも簡単に破られた。同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない。…このような世界の歴史の転換期において我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある。その中において、防衛力の抜本的強化を始めとして、最悪の事態をも見据えた備えを盤石なものとし、我が国の平和と安全、繁栄、国民の安全、国際社会との共存共栄を含む我が国の国益を守っていかなければならない。…唯一の戦争被爆国として、『核兵器のない世界』の実現に向けた国際的な取組を主導する。北朝鮮、イラン等の地域の不拡散問題も踏まえ、核兵器不拡散条約(NPT)を礎石とする国際的な核軍縮・不拡散体制を維持・強化し、現実の国際的な安全保障上の課題に適切に対処しつつ、実践的・現実的な取組を着実に進める。国際社会において、力による一方的な現状変更及びその試みが恒常的に生起し、我が国周辺における軍備増強が急速に拡大している。ロシアによるウクライナ侵略のように国際秩序の根幹を揺るがす深刻な事態が、将来、とりわけ東アジアにおいて発生することは排除されない。このような安全保障環境に対応すべく、防衛力を抜本的に強化していく。…飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある。…この反撃能力については、1956年2月29日に政府見解として、憲法上、『誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である』としたものの、これまで政策判断として保有することとしてこなかった能力に当たるものである。この政府見解は、2015年の平和安全法制に際して示された武力の行使の三要件の下で行われる自衛の措置にもそのまま当てはまるものであり、今般保有することとする能力は、この考え方の下で上記三要件を満たす場合に行使し得るものである。…日米の基本的な役割分担は今後も変更はないが、我が国が反撃能力を保有することに伴い、弾道ミサイル等の対処と同様に、日米が協力して対処していくこととする」(国家安全保障戦略から)

~「国際連合安全保障理事会(以下「国連安保理」という。)常任理事国であるロシアがウクライナへの侵略を行った事実は、自らの主権と独立の維持は我が国自身の主体的、自主的な努力があって初めて実現するものであり、他国の侵略を招かないためには自らが果たし得る役割の拡大が重要であることを教えている。また、今や、どの国も一国では自国の安全を守ることはできない。戦後の国際秩序への挑戦が続く中、我が国は普遍的価値と戦略的利益等を共有する同盟国・同志国等と協力・連携を深めていくことが不可欠である。…相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある(国家防衛戦略から)

~「我が国の防衛上必要な機能・能力として、まず、我が国への侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除できるようにする必要がある。このため、『スタンド・オフ(離れているの意味)防衛能力』と『統合防空ミサイル防衛能力』を強化する。…スタンド・オフ防衛能力  我が国に侵攻してくる艦艇、上陸部隊等に対して、脅威圏の外から対処する能力を獲得する。…2023年度から2027年度までの5年間における本計画の実施に必要な防衛力整備の水準に係る金額は、43兆円程度とする(防衛力整備計画から)

~「岸田文雄首相は(2023年2月)27日、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』について日本が400発の購入を計画していると明かした。政府は2023年度に契約を締結し26、27両年度に海上自衛隊のイージス艦へ配備を目指す。相手のミサイル発射拠点などをたたく『反撃能力』の行使手段にする。首相は27日の衆院予算委員会で、購入数は『400発を予定している』と話した。浜田靖一防衛相は『最大で400発の取得を可能とする方向で米側と調整中』と語った。…21年に米海軍への納入が始まった最新型を買う。艦艇から発射し、射程は1600キロメートル以上になる。…政府は22年末に決定した国家安全保障戦略など安保関連3文書で反撃能力の保有を打ち出した。…トマホークは早期の配備を見込める長射程弾になる。これまで相手の侵攻を食い止めるために用いる自衛隊のミサイルの射程は最大で百数十キロメートルほどだった」(日経新聞オンライン2023年2月27日付。ちなみに日本列島の本州の長さは約1219キロメートル)

・改憲の動き
~「自衛隊」の明記と「自衛の措置」の言及。国会や内閣の緊急事態への対応を強化(自民党のホームページから)
~岸田首相が「目の前の(自民党総裁)任期において憲法を改正する努力をする」と発言(2023年6月21日、国会閉会後の記者会見、「赤旗」同年7月18日付)

・GDP2%大軍拡予算案=2023年度予算案=(2023年3月28日、参議院で可決成立)
立民・社民、共産、維新、国民、れいわ、沖縄の風は反対。
自民、公明、政治家女子48党は賛成

・原発推進等5法案(2023年5月31日、参議院で可決成立)
立民、共産は反対。自民、公明、維新、国民は賛成

・軍需産業支援法案(2023年6月7日、参議院で可決成立)
共産は反対。立民、自民、公明、維新、国民は賛成

・軍拡財源法案(2023年6月16日、参議院で可決成立)
立民、共産、維新、国民は反対。自民、公明は賛成

=以上の予算案や3法案への政党会派の賛否は参院ホームページ「本会議投票結果」や、「赤旗」2023年6月22日付など参照=

・「防衛装備移転3原則」(2014年4月1日に閣議決定。旧・武器輸出3原則)の改定の動き

→ほとんどが、ウクライナ危機に乗じた大軍拡路線の強行。ウクライナ危機は国際法違反のロシアの侵略に対する反対世論のいっそうの喚起や、そのための平和外交の必要性こそ求められている。平和憲法を持つ日本の大軍拡・原発推進の必要性には直結しない。因果関係が論理的に飛躍しており支離滅裂である

・読売新聞の全国世論調査(2023年1月13~15日実施。同年1月16日付)
~質問「政府は、日本の防衛力を強化するため、これまでの5年間で総額約27兆5000億円だった防衛費を、今後5年間で総額43兆円に増やすことを決めました。このことに、賛成ですか、反対ですか」
→回答「・賛成 43 ・反対 49 ・答えない 8」(単位%)
~質問「政府は、防衛費を増やすための財源として、法人税、所得税、たばこ税の3つを段階的に増税し、2027年度に1兆円強を確保する方針です。この方針に、賛成ですか、反対ですか」
→回答「・賛成 28 ・反対 63 ・答えない 8」(単位%)

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