(2016年7月19日からカウント)
◎(別項2)「TPPはいらない!8・27緊急集会」での東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんの発言全文
2011年8月27日に都内で行われた「TPPはいらない!8・27緊急集会」で来賓あいさつした東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんの発言全文は次のとおりです。
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みなさん、こんにちは。ただいまご紹介いただきました鈴木と申します。本日は、このような機会をいただきまして、まことにありがとうごあいます。
さて、このTPPの問題、震災復旧・復興とからんでですね、大変、驚くべき議論が展開されております。
東日本の沿岸部がぐじゃぐじゃになってしまったのを、いい機会だ、いい機会だからと、これをガラガラポンして、大規模規格の農地をつくって、それを全国モデルにすれば、TPPもこわくない。このですね、むちゃくちゃな3段論法に、私は大変、残念に思っております。
まずもって、大変、たくさんのものを失っても、この地で自分たちの生活と経営を立て直そうとしておられる、必死で努力しておられるみなさんを前に、もうぐじゃぐじゃになったんだから、もうみなさん、どっかに行ってください、ここに特区をつくって、企業が入ってきて、大規模農業をやればいい、そういうことをいうこと自体に、人としての心のなさというものを、私はまずもって感じざるをえません。(「そーだ」の声、拍手)
ですから、これが全国モデルになるという、その発想というのは、まったくむちゃくちゃでございます。これほどの事態になって初めて、大規模規格ができるのなら、日本の土地条件というのは、そう簡単には大規模農業はできないということでございます。(拍手)
それを全国モデルにするということは、日本中が大災害に見舞われなければいけないということになる。(笑い)
しかも、さきほども話がありましたが、2㌶ぐらいの大規模規格をつくったとしても、われわれがTPPで戦わなければならないオーストラリアは、1規格100㌶で、適正規模が1戸1万㌶なんです。みなさんの農業がいくら強いといっても、残念ながら、それだけの土地条件の差には勝てません。それを無視した議論は本当に空論でございます。
ですから、いままでのいろんな議論を聞いていますと、震災復旧・復興ですね、現場で本当に努力しているみなさんの方々の声を本当に聞こうとしているのか、その気持ちをどう考えているのか、ということが、本当に問われている。
そういう中で、いろんな復興・復旧プランがですね、何か夢のようなプランを組んでいるけれども、現場にはなかなか国からの予算も、それから義援金も、原発補償も届かない。こういう状況では、なかなか復旧・復興どころではございません。
そういう中で、火事場泥棒的に、自分たちのいままでの議論と結び付けてですね、震災復旧だからTPPだとかいうのは、まったく無謀な議論をしているというのが、非常に悲しい現実だと思います。
そういう中で、このTPP、いまですね、また、11月に向けて、これは実は、6月に参加を見送ったといわれていますが、実は水面下で進んでいて、先ほどらいの話にあるように、突然にこの秋になって、これをやってしまいましたということになりかねない。本当にこれこそ、拙速きわまりないことになりかねない。
どうしてもこの問題は、食・農のみならず、日本社会全体に大きな将来に禍根を残すことになりかねませんので、食料・農業の問題だけに矮小(わいしょう)化して、農業が悪いから、農業を改革すれば、TPPに入れるというような情報操作が、行われてきたということは、けっして許されないことであります。
原発の問題もそうです。情報操作をし、大丈夫だ、大丈夫だといって、本当に大変なことになったら、だれが責任を取るのですか。
そういうことに対して、きちんと責任を取る社会にしないと、こういうことは繰り返されてしまいます。
ですから、TPPの問題については、みなさんの力で、われわれの力で、なんとかこの問題を正常化するまで、引き下がれないという状況だと思います。
TPPはご案内のとおり、いままでの自由貿易協定とは違いまして、まったく例外を認めない、こういった徹底した自由化でございます。
関税の撤廃はもちろんですが、日本社会として独自のルールも認めないんですね。とくに、アメリカの企業などが日本で利益を最大化できるように、すべての垣根を取り払うというような、徹底した自由化を求められることになります。
しかしながら、改革、改革といいますけれども、日本の製造業の関税も実は一番低いし、農業をとってもどうでしょうか、われわれの体の原材料の60%はすでに海外に依存しているわけですよ。みなさんの体はですね、原産地国表示ルールでいえば、すでに国産ではない。(爆笑、拍手)
こんな体にだれがしたのか、というぐらいに、開放度の中で、ただちに開国というのは、なんでしょうか。
ということは、逆にいえばですね、もう独立国としての最後のとりでを失うまでの、ぎりぎりのわれわれが守ってきた部分を、食も農業もその他の部分も明け渡すということでございます。
そのようなことをして本当に日本社会が、どれだけの利益を得るのか。その点をきちんと考えないとどうするのか。TPPに乗らなかったら日本が沈没する(というが)、乗ったら沈没する泥船じゃないかということを、われわれはしっかり検討したうえで、この問題を正常化しなければならない。
そのためにはぜひ、TPP反対ということと同時に、TPPじゃない形の、本当にわれわれが、みんなは幸せになれる、互恵的で柔軟性のある経済連携協定というのはなんなのかという点について、ぜひまた、みなさんの力で、われわれの力で対案を出していくということも重要ではないかと思います。
それからいよいよ、がんばってもなかなか、政府の中枢がこれをなんとかしようとする流れが強まってきますので、いろんな圧力がかかってまいります。
私に対しても、そろそろ君も自分の将来のことを考えて、トーンダウンした方がいいのではないか、とかいうふうに忠告してくれる方もおります。大変ありがたいことでありますが、私はこういうふうにいわれると、逆の方に行ってしまいますので、だめでございますが。(笑い)
さらに具体的にですね、手鏡事件で失脚された某教授がおられた、それと同じようなことを鈴木に計画しているので気を付けたほうがいいと、言われました。(笑い)
私はある意味、そういう病気はございませんので…。(爆笑)
いや、そんな、でっちあげは簡単だというんですね。さらにオーストラリアの方に、ありがたい忠告をいただきました。君はすでにCIAに狙われている可能性がある。(爆笑)
で、金髪の美しい女性が近寄ってきて、仲良くしてくれといわれたら、ありえないことなんだから、絶対について行っちゃいけないよと。(大爆笑)
つまりですね、99.9%、冗談ですけれども、これくらいTPPの問題というのは、非常にですね、アメリカとの関係、中国との関係、アジアとの関係も含めた、非常に政治外交的にもですね、むつかしい、厳しい部分を含んでおります。
しかしながら、だからといって、われわれは、引き下がるわけにはいかない。日本の将来のために、この問題を正常化するまでは、引き下がれないということでございますので、ぜひですね、それぞれのお立場から、この問題については覚悟を決めていただいて、ここにお集まりいただいたのが運のつきということで(爆笑)、みなさん、それぞれの立場で、この問題について、覚悟を決めていただいて、がんばったけれどもだめでしたではすまない問題だと思います。がんばった以上はかならず(拍手)、この問題を正常化する。
それを含んで、私も研究者の立場から、積極的にやっております。そういうみなさんの、われわれの力を結集して、この問題を正常化するまで、いっしょにがんばりましょう。(大きな拍手)
(経済ジャーナリスト・今田真人=2011年8月27日記)