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「週刊金曜日」12月11日号こぼれ話(2015年12月15日〜16日のツイートから再録)
    経済ジャーナリスト、今田真人




@「軍慰安婦」が労務調整令7条の動員対象だったことを示す厚生省186号通牒。大半が焼却されたとされる慰安婦関連公文書が発見できたのは、戦中の内務省職員(厚生省は1938年に内務省から分離)の故・鈴木僊吉氏の遺族が国会図書館に寄贈していたから。


A鈴木僊吉氏は、1928年に東京帝国大学法学部を卒業し内務省に入省。日中戦争が始まると、38年1月、内務省社会局などの一部が分離して厚生省新設。同氏は39年10月、厚生省に移籍。44年、同省勤労局動員第2課に所属。同課は女子動員を所掌した。


B戦後直後に焼却命令があった「軍慰安婦」関連の極秘通牒を、鈴木僊吉氏が秘蔵していたのは、この通牒を直接担当した厚生省の担当職員だったこだわりからだろう。彼は50年に死去したが、遺族がその後、国立国会図書館支部・労働省図書館(当時)に寄贈した。


C38年当時の内務省警保局の「慰安婦」関連資料を秘蔵していたのは、同局職員、故・種村一男氏。彼も生前は警察大学校に寄贈したものの公開せず、82年に死去。96年、警察庁が共産党の吉川春子参院議員に提出して公開。鈴木僊吉氏と同じ構図だ。


D「軍慰安婦」を動員した労務調整令(1941年勅令)の目的→「第1条 国家に緊要なる事業に必要なる労務を確保する為にする国家総動員法第6条の規定に基く従業者の雇入、使用、解雇、就職及退職の制限は別に定むるものを除くの外本令の定むる所に依る」


E「軍慰安婦」を動員対象と位置付けた労務調整令第7条の規定→「年齢14年以上40年未満の男子又は年齢14年以上25年未満の女子にして技能者及国民学校修了者たらざるもの(以下一般青壮年と称す)の雇入及就職は左の各号の1に該当する(続く)」


F労務調整令第7条の規定「(続き)場合を除くの外之を為すことを得ず 1 国民職業指導所の紹介に依り雇入れ及就職する場合 2 指定工場の事業主、厚生大臣の指定する事業を営む者又は厚生大臣の指定する者命令の定むる所に依り国民職業指導所の(続く)」


G労務調整令第7条の規定「(続き)紹介に依らずして雇入れるべき一般青壮年の員数其の他雇入に関する事項に付国民職業指導所長の認可を受けたる場合 3 命令の定むる所に依り特定の一般青壮年の雇入及就職に付国民職業指導所長の認可を受たる場合」


H例の厚生省「極秘通牒」の詳報。この通牒のメインは「労務調整令事務取扱要領」の徹底。同要領の「一般青壮年の雇入及就職認可申請の処理」の(1)に次の規定がある。「規則8条第1項の特定の青壮年雇入及就職認可申請に対する処分は別記(続く)」


I例の厚生省「極秘通牒」の詳報。「(続き)『令第7条第3号の認可方針』に依り之を為すべきこと」とある。そしてこの「別記『令第7条第3号の認可方針』」の「第3章 令第7条第2号に掲ぐる者以外の者に対する認可方針」の表に「酌婦、女給」が出てくる。


J「極秘通牒」の仕組みは官庁文書らしい複雑なものであるが、よく読むと、年齢14歳以上25歳未満で技能者及び国民学校修了者ではない女性を、「軍慰安婦」に動員したことは明確。「〇の要求に依り慰安所的必要ある場合」だけ認可するって、変な文章だけど。


K「〇の要求に依り」とは、他の関連公文書と比較すると「軍の要求に依り」という意味であることは明らか。また、「軍慰安婦」以外の「慰安婦」の募集は認可しないということも意味する。義務教育制を導入していなかった朝鮮の女性を狙い撃ちしたことも明確。


L戦中の朝鮮人女性の教育事情は『証言・未来への記憶T』(06年、明石書店)の金富子論文に詳しい。「日本と違って義務教育制が導入されなかった朝鮮では、経済的に優位にある在朝日本人児童よりも、朝鮮人児童のほうが高額の授業料を毎月徴収され(続く)」


M「(続き)朝鮮人の就学自体が政策的に抑制されていた」「とりわけ朝鮮人女性は、朝鮮社会のなかで女子に学問は不要であるとする儒教的な考え方が根強かったこと、朝鮮総督府も性差別を温存・維持したために、女性の地位が低く学ぶ機会に恵まれなかった」


N金富子論文引用続き「こうした趨勢は植民地末期である1940年代になっても大きな変化はなく、…朝鮮人男子の3人に1人、女子の3人に2人は、生徒として学校の門を一度もくぐったことのないという意味での完全不就学であった」。なんと露骨な政策か。


Oちなみに、Hに出てくる「規則8条第1項」とは「労務調整令施行規則8条第1項」のことで、「令第7条第3号の認可の申請は様式第7号に依り一般青壮年を使用せんとする場所の所在地の所轄国民職業指導所長に対し之を為すべし」と手続きを規定。ややこしい。


P拙稿の(注1)で紹介した「昭和16年度労務動員実施計画に依る朝鮮人労務者の内地移入要領」もすごい。強制連行の1つ、「官斡旋」方式の具体化だ。厚生省→朝鮮総督府→各道府郡島と人数を割り当て、当地職員(官憲)が労務者の供出義務を負う。逆はない。


Q同要領の「朝鮮労務供出機構の整備拡充」という項目に「朝鮮に於て労務担当職員に適任者を得難きときは内地関係官庁は之が供出に付協力する」という規定あり。これこそ内地警察の外郭団体「労務報国会」の法的根拠だろう。同会については別途原稿を書きたい。



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