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「慰安婦募集業者」は軍の偽装請負
(2017年1月16日~17日のツイート再録)
=経済ジャーナリスト・今田真人=


①「慰安婦」問題の法的責任は「業者」にあり、「国家の行為は…『法的責任』を問うのは難しい」と言う朴裕河『帝国の慰安婦』(P46)。しかし、職安法では、業者が発注先の軍(国家)の指揮下に入れば「偽装請負」となり、軍に法的責任が生じる。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%BD


②日本軍の統制・命令で、「慰安婦」を募集・連行し、軍慰安所を経営した「業者」。これは近代法では、「業者」そのものが軍隊の一機構であったことになり、すべての法的責任は、日本軍にあることになる。「業者」が朝鮮人の女衒出身だとしても軍の法的責任は免れない。


④これは、吉見義明氏が発見し、朝日新聞が1992年1月11日付で大きく報じた公文書であり、「慰安婦」問題を論じる際の第一級の基礎資料である。ところが、朴裕河氏はじめ、業者主犯論を唱える右派論客は、これをまじめに分析した形跡がない。改めて全文引用する。


⑤「副官より北支方面軍及中支派遣軍参謀長宛通牒案――支那事変地に於ける慰安所設置の為内地に於て之か従業婦等を募集するに当り故(ことさ)らに軍部諒解(りょうかい)等の名儀(めいぎ)を利用し為に軍の威信を傷つけ」(カタカナはひらがなにした、以下同じ)


⑥「且つ一般民の誤解を招く虞(おそれ)あるもの或(あるい)は従軍記者、慰問者等を介し不統制に募集し社会問題を惹起する虞あるもの或は募集に任する者の人選適切を欠き為に募集の方法誘拐に類し警察当局に検挙取調を受くるものある等注意を要するもの少からざるに」


⑦「就(つい)ては将来是等の募集等に当りては派遣軍に於て統制し之に任する人物の選定を周到適切にし其(その)実施に当りては関係地方の憲兵及(および)警察当局との連携を密にし次(つい)で軍の威信保持上並に社会問題上遺漏なき様配慮相成度(たく)依命通牒す」


⑧この公文書を注意深く読んでほしい。第1に気づくのは、慰安婦」募集の主体が業者ではなく、通牒の宛先の「北支方面軍」と「中支派遣軍」だということである。「業者」という言葉すらない。募集を担当するのは現地の日本軍が「募集に任ずる者」である。これが軍の本音だ。


⑨現地の軍が日本内地に送った工作員の多くが、ことさら「軍命だ」と広言し女性を誘拐して警察に捕まり、軍の信用を失墜させている。だから、これからは軍が工作員の人選を適切にし、憲兵や警察と秘密裏に連携してうまくやれ、という秘密指令である。実にわかりやすい。


⑩ところが、朴裕河『帝国の慰安婦』は、この公文書の写真だけを掲載。「慰安所の従業婦を募集する人物を軍が適切に選定するなど、募集過程で軍の『威信』を害したり、社会問題を起こすようなケースがないようにと指示している」(P27)と絵解きを書く。違うだろ。


⑪朴裕河氏は「軍の希望を直接または間接的に知った業者たちが、慰安婦の募集に出た」(P31・32)という業者主犯論で目が曇っているようだ。だから、この公文書も、軍は「慰安婦」を募集する人物が社会問題を起こさないように取り締まったと真逆に解釈してしまう。


⑫朴裕河氏が真逆の解釈をしたのは「募集する人物」を「軍が適切に選定する」としか読まなかったからだ。しかし実際は「軍に於て統制し之に任する人物の選定を周到適切にし」とある。「任ずる」とは「官職・役目につかせる」こと。軍が任命した工作員、偽装請負業者だった。


⑬拙著『吉田証言は生きている』(共栄書房)に収録した吉田証言によると、労務報国会が朝鮮から下関に強制連行してきた女性たちは、南方から軍属が迎えに来ていたという(P72~)。軍属とは兵士を除く軍隊に勤務する者。軍から給与をもらう者を民間業者とは呼べない。


⑭第2に気づくのは、「慰安婦」募集で、「軍の威信」を保持し「社会問題」を起こさないために、内地の憲兵や警察と連携せよという方策を打ち出していることだ。連携して誘拐などの違法な「募集」を阻止せよというのではない。官憲による強制連行を指示しているのだ。


⑮公文書の文面をまともに読めば、軍の工作員に対して、憲兵や警察と連携して「募集」をせよ、そうすれば「軍の威信」を保持して「社会問題」を起こさないですむから、という指示であることがわかる。誘拐を取り締まるべき官憲に誘拐の共犯者になれ、ということだ。


⑯戦時中の内地や植民地で、「慰安婦」にする女性を官憲が軍の工作員(業者を装う)とともに「募集」すれば、それは強制連行以外の何物でもなくなる。植民地・朝鮮で村の役人と日本人警察官が家にきて「国のために娘を供出してほしい」と言えば、断ることはできない。


⑰親が官憲の「募集」を断れば「非国民」といわれ、配給の食料もストップし、一家は路頭に迷う。また、供出に応じた娘が連行途上で逃げ出せば、官憲は当然、銃剣などで阻止する。戦時下で公共輸送機関を使い、多数の女性を戦地に連行するなど、民間業者では絶対できない。


⑱1938年3月4日の陸軍省副官の文書が、軍と「憲兵及警察当局との連携」による「慰安婦」募集を指示したことに呼応し、それを裏づける内務省警保局長(現在の警察庁長官に相当)名の公文書もある。1938年2月23日付通牒「支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件」である。










⑲この内務省の公文書は、「河野談話」(1993年8月4日)発表時に政府が公表した一連の公文書には含まれていない。その後、96年12月19日、日本共産党の吉川春子参院議員に警察庁が初めて提出し、公開したものである。大事な内容なので、これも全文引用したい。


⑳「秘・内務省発警第5号・昭和13年2月23日・内務省警保局長・〇〇殿・支那渡航婦女の取扱に関する件――最近支那各地に於ける秩序の恢復(かいふく)に伴ひ渡航者著しく増加しつつあるも是等の中には同地に於ける」(カタカナをひらがなにした、以下同じ)


㉑「料理店、飲食店、『カフェー』又は貸座敷類似の営業者と聯繋(れんけい)を有し是等の営業に従事することを目的とする婦女寡(すくな)からざるものあり更(さら)に亦(また)内地に於(おい)て是等婦女の募集周旋を為(な)す者にして恰(あたか)も」


㉒「軍当局の諒解(りょうかい)あるかの如(ごと)き言辞を弄(ろう)する者も最近各地に頻出(ひんしゅつ)しつつある状況に在(あ)り婦女の渡航は現地に於ける実情に鑑(かんが)みるときは蓋(けだ)し必要已(や)むをえざるものあり警察当局に於ても」


㉓「特殊の考慮を払い実情に即する措置を講ずるの要(よう)ありと認めらるるも是等の取締にして適正を缼(か)かんか帝国の威信を毀(きずつ)け皇軍の名誉を害(そこな)ふに止まらず銃後国民特に出征兵士遺家族に好ましからざる影響を與(あた)ふると共(とも)に」


㉔「婦女売買に関する国際条約の趣旨にも悖(もと)ること無(な)きを保(ほ)し難(がた)きを以(もっ)て旁ゝ(かたがた)現地の実情其の他各般の事情を考慮し爾今(じこん)之が取扱に関しては左記の各号に準拠することと致度(いたしたく)」


㉕「依命此段及通牒候(いめいこれだんおよびつうちょうそうろう)=省庁トップ(内務大臣)の命令があったのでこの通牒を出しますという意味=」「記 1、醜業(しゅうぎょう)を目的とする婦女の渡航は現在の内地に於て娼妓其の他事実上醜業を営み」


㉖「満21歳以上且(かつ)花柳病其の他伝染性疾患なき者にして北支、中支方面に向ふ者に限り当分の間之を黙認することとし昭和12年8月米三機密合第3776号外務次官通牒に依(よ)る身分証明書を発給すること 2、前項の身分証明書を発給するときは稼業の」


㉗「仮契約の期間満了し又は其の必要なきに至りたる際は速(すみやか)に帰国する様予(あらかじ)め諭旨(ゆし)すること 3、醜業を目的として渡航せんとする婦女は必ず本人自ら警察暑に出頭し身分証明書の発給を申請すること 4、醜業を目的とする婦女の渡航に」


㉘「際し身分証明書の発給を申請するときは必ず同一戸籍内に在る最近尊属親、尊属なきときは戸主の証人を得せしむることとし若し承認を輿(あた)ふべき者なきときは其の事実を明(あきらか)ならしむること 5、醜業を目的とする婦女の渡航に際し身分証明書を」


㉙「発給するときは稼業契約其の他各般の事情を調査し婦女売買又は略取誘拐等の事実なき様特に留意すること 6、醜業を目的として渡航する婦女其の他一般風俗に関する営業に従事することを目的として渡航する婦女の募集周旋等に際して軍の諒解又は之と連絡あるが如き」


㉚「言辞其の他軍に影響を及ぼすが如き言辞を弄する者は総(すべ)て厳重に之を取り締まること 7、前号の目的を以て渡航する婦女の募集周旋等に際して広告宣伝をなし又は事実を虚偽若(もしく)は誇大に伝ふるが如きは総て厳重之を取締ること又之が募集周旋等に従事」


㉛「する者に付(つい)ては厳重なる調査を行ひ正規の許可又は在外公館等の発給する証明書等を有せず身許の確実ならざる者には之を認めざること」(引用は以上)。


㉜あれこれ条件をつけているが、この通牒は、内地での「慰安婦」の「募集周旋」を「必要やむをえざるもの」とし、「当分の間之を黙認する」と言明。この理屈で言えば、「黙認」が共犯関係へ進むのに大きな障害はない。軍の了解を広言するなということだけである。


㉝内務省警保局長の通牒は、さらにこの「慰安婦」の「募集」が、陸軍省副官の公文書が恐れていた「軍の威信」の毀損だけでなく、「銃後国民特に出征兵士遺家族に好ましからざる影響」を与えることや、「婦女売買に関する国際条約の趣旨」にも反することを認めている。


㉞「銃後国民特に出征兵士遺家族に好ましからざる影響」とは、内地女性を「募集」すると、銃後の国民や遺家族に「聖戦」への道徳的不信が生じるということだ。だから、警察の取締は「軍の諒解」による「醜業婦女」の「募集」ではなく、日本語による「言辞」などであった。


㉟なお、通牒で列挙されている満21歳以上とか、事実上の「醜業」婦とかの条件は、警察の協力があれば、軍の工作員にとって簡単にごまかせたはず。例えば未成年女子を「挺身隊」とだまして外地に連れ出せばいい。日本語が通じない植民地朝鮮ではさらに簡単だっただろう。


㊱軍や警察が恐れたのは「慰安婦」の「募集」が「軍の了解」や「軍と連絡」して実施されているものだということが、内地や植民地の「銃後国民」に知れ渡ることだった。ここから、「募集」にあたる軍の工作員が、「民間業者」を装わざるをえなかったことが理解できる。


㊲軍の工作員が「慰安婦募集」のため、内地だけでなく、植民地・朝鮮にも向かっていた事実は、1996年12月19日に吉川春子参院議員に提出された内務省警保局関連の一連の公文書の一つ、1938年2月7日付の「時局利用婦女誘拐被疑事件ニ関スル件」に記載がある。




㊳この公文書には、在上海日本総領事館警察暑(外務省警察の一つ)作成の「皇軍将兵慰安婦女渡来ニツキ便宜供与方依頼ノ件」という文書が紹介されている。37年12月21日付の同文書の該当個所だけを引用する。(引用文はカタカナをひらがなにした)


㊴「本件に関し前線各地に於ける皇軍の進展に伴ひ之が将兵の慰安方に付関係諸機関に於て考究中の處(ところ)頃日来(けいじつらい)當館陸軍武官室憲兵隊合議の結果施設の一端として前線各地に軍慰安所(事実上の貸座敷)を左記要領に依り設置することとなれり(続く)」


㊵「(続き)右要領に依り施設を急ぎ居る處既に稼業婦女(酌婦)募集の為(ため)本邦内地並朝鮮方面に旅行中のものあり今後も同様要務にて旅行するものある筈(はず)」。


㊶警察庁が吉川春子参院議員に提出した一連の公文書には、1938年11月8日施行の警保局長名の通牒「南支方面渡航婦女ノ取扱ニ関スル件」がある。手書きで読みにくいが、清書したものをこのほど私が国立公文書館で発見。業者の位置付けが興味深い。該当個所を引用する。






㊷「本件極秘に左記に依り之を取り扱うことと致度(いたしたき)に付(つき)御配慮相成度(あいなりたく)…記…1、抱主(かかえぬし)たる引率者の選定及(および)取扱 (イ)引率者(抱主)は貸座敷業者等の中より身許確実にして南支方面に於て軍慰安所を経営」


㊸「せしむるも支障なしと認むる者を抱主たる引率者として選定し、之に対し南支方面に軍慰安所を許さるる模様に付(つき)若(も)し其の設置経営の希望あるに於ては便宜関係方面に推薦する旨を懇談し何處迄(どこまで)も経営者の自然的希望に基く様取運び之を選定」


㊹「すること…4、募集 醜業を目的とする渡航婦女の募集は営業許可を受けたる周旋人をして陰に之を為さしめ、其の希望婦女子に対しては必ず現地に於ては醜業に従事するものなること(を説明せしめること=清書版ではこの文が欠落=) 尚周旋料等は引率者(抱主)に」


㊺「於て負担せしめること」(引用は以上)


㊻通牒は、業者を「貸座敷業者等」から選び、「経営者の自然的希望に基く様」動き、「募集は…陰に之を為さ(しめる)」と指示。業者はすべて軍の「指揮監督」に従えとしながら、軍と無関係の「自然的希望に基く」民間業者のように装えと言う。まさに軍の工作員である。


㊼ちなみに「募集」では「希望婦女子に対しては必ず現地に於ては醜業に従事するものなることを説明せしめること」というが、どの段階で説明するのか不明。清書版では「を説明せしめること」が抜け、現地に着いたら問答無用「慰安婦」にするとも読める。正式な通牒は後者。


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