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(2016年7月17日〜カウント)


☆論評「アベノミクスによる円安をどう見るか」

(2013年2月21日記)
          経済ジャーナリスト 今田真人    

 (『R25』編集部の取材を受ける際、準備した論評を紹介します。そのとき、添付した図表も、一部を紹介します。『R25』の記事は、同年3月21日号に掲載されていますので、そちらを参照ください)


☆現在の円安による値上がり事情


 @今の円安の原因について。

 安倍首相の2%インフレ・ターゲット政策に、外為市場の投機勢力がいち早く反応している結果だと思います。


 A1ドル=何円まで円安になるかについて。

 外為取引は異種通貨の交換が本質です。
 投機勢力が安くなる円を売るといっても、同時に安くなる円を買う勢力がいなければ、取引は成立しません。
 いまのところ、安くなる円を買いたい勢力は、自動車メーカーなどの大手輸出製造業ぐらいです。
 円を買いたい勢力は、実需として円を必要とする勢力ですから、投機勢力の資金量と比べると、相対的に小さく限界があります。
 したがって、いつまでも円安傾向の円・ドル交換取引が続くとは思えません。


 B実際にインフレ・ターゲット政策(とりわけ、日銀の国債引き受けの本格化)が実施されるとどうなるか、について。

 インフレが大規模に発生すれば、その物価上昇率に応じ、円資金の通貨価値が減少します。
 2%分、円資金の通貨価値が下げれば、購買力平価も、1ドル=106.77円(2011年平均)が、1ドル=108.91円に動きます。
 市場レートは円安傾向を維持しながら、この1ドル=108.91円という購買力平価を中心に、乱高下が続くと思います。 


 C円相場は完全な変動相場制であり、短期的には、参議院選挙など政治的事件を口実にして投機勢力が動かしますので、賭け事と同じで、予測できません。

 しかし、長期的には、インフレ政策の実施で円通貨の価値が下がり、購買力平価が円安に動くので、市場レートも円安が基調となります。


 D市場レートと購買力平価の乖離について。

 現在、市場レートだけが円安に動いているため、乖離は縮小しています。
 ですから、輸出業者は若干、本来の利益を取り戻しつつあり、中国などからの輸入品は少々割高になり、国産品の価格競争力は向上しています。
 ただ、これも、インフレ政策が本格化し、購買力平価が円安に動けば、乖離はまた、広がります。


 E日本の産業空洞化や賃下げ圧力を阻止するには、どうすればいいかについて。

 やはり、私が著書で書いているように、円やドルなどの外為取引で、市場レートを通貨の等価交換レート(本当の購買力平価)に一致させるような改革をする以外に方法はありません。
 そうしてこそ、市場レートと購買力平価の乖離がなくなります。


 Fただ、現在の円安は、投機勢力が主導しているとしても、市場レートと購買力平価の乖離を縮小しています。

 それが、いかに日本経済に好影響を与えているかも日々、示しています。
 日本経済を危機に陥れている元凶が、この市場レートと購買力平価の乖離であることを、まがりなりにも物語っています。


 Gどういう商品が値上がりするのかについて

 市場レートが円安に動けば、当然、輸入品は、それだけ値上がりします。
 とくに輸入依存度の高いガソリンやパソコン、電機製品、衣類、加工食品など、ドルを経由して買い付けている輸入品は、自動的に円安に動いた分だけ値上がりします。
 ただ、国産品の場合、中国や東南アジア諸国からの輸入品など、多少の円安で輸入品が値上がりしても、まだまだ、圧倒的な価格差があるので、それと競合する国産品は、値下げ圧力が続きます。
 ただし、輸入品とあまり競合しない近郊野菜などは、別の季節的な需給関係で値上がりすることもあります。


☆現状でちょうどいい円ドルレートについて

 円ドルレートのちょうどいい相場は、購買力平価です。
 しかし、インフレ政策で、日本の物価を2%上げると、円通貨の価値は、100÷102=98.04、つまり約2%下がります。
 すると、いまの購買力平価の1ドル=106.77円(2011年平均)が、1ドル=106.77円×1.02=108.91円になります。
 この購買力平価が、通貨の交換での等価交換レートであり、円ドルのちょうどいい相場です。
(以上)


いくつかの国の市場レートの推移、対ドルレート、2013年2月21日時点の世界銀行のホームページから引用(Official exchange rate 、LCU per US$, period average)

Country Name 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
China 8.28 8.28 8.19 7.97 7.61 6.95 6.83 6.77 6.46
Japan 115.93 108.19 110.22 116.30 117.75 103.36 93.57 87.78 79.81
Korea, Rep. 1,191.61 1,145.32 1,024.12 954.79 929.26 1,102.05 1,276.93 1,156.06 1,108.29
Thailand 41.48 40.22 40.22 37.88 34.52 33.31 34.29 31.69 30.49
United Kingdom 0.61 0.55 0.55 0.54 0.50 0.54 0.64 0.65 0.62
United States 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00
Vietnam 15,509.58 15,746.00 15,858.92 15,994.25 16,105.13 16,302.25 17,065.08 18,612.92 20,509.75



いくつかの国の購買力平価の推移、対ドルレート、2013年2月21日時点の世界銀行のホームページから引用(PPP conversion factor, GDP 、LCU per international $)

Country Name 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
China 3.30 3.43 3.45 3.47 3.62 3.82 3.75 3.97 4.19
Japan 139.82 134.16 129.55 124.86 120.22 116.85 115.25 111.36 106.77
Korea, Rep. 794.28 796.00 788.92 774.82 768.65 785.72 805.58 823.67 820.59
Thailand 15.71 15.75 15.93 16.24 16.33 16.61 16.71 17.20 17.54
United Kingdom 0.64 0.63 0.64 0.63 0.65 0.65 0.66 0.67 0.68
United States 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00
Vietnam 4,277.28 4,500.57 4,712.69 4,897.14 5,151.30 6,155.46 6,441.75 7,155.21 8,459.20


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