(2020年8月19日からカウント)
産業空洞化と不破氏の責任(2020年7月11日~のツイート再録)
(フリージャーナリスト、今田真人)
①私が赤旗記者時代に、産業空洞化の大きな原因が為替問題にあると考えるようになったのは、外国人労働者問題である。彼らは低賃金で人権侵害が横行する日本にあえて働きに来る。それで大変な人権侵害に会うのだが、それでも日本で働き続けたいと思っていた。それはなぜかを知りたいということだった。
②取材を続けるうちに気づいたのは、日本でどんなに低賃金で劣悪な労働をしても、例えば、月5万円の賃金をもらったとしても、そのうち4万円を故郷の中国やフィリピン、バングラディッシュなどに仕送りすれば、それが20倍近い価値になり、立派な豪邸を建て、多くの家族を養えるという事実だった。
③日本で短期間、劣悪な労働条件をがまんして働けば、それで稼げる低賃金を、母国の途上国の家族に仕送れば、それが何十倍もの価値の母国貨幣に化ける。これこそが、日本の大企業が、自国の正規労働者をリストラで大量解雇し、逆に大量の外国人労働者を懸命に受け入れようとした原因であった。
④この為替構造の下、社会主義を名乗る中国が、2000年代初頭、外国企業の進出を受け入れる政策に大転換する。日本の大企業などは中国への進出ラッシュを始めた。日本企業は、中国で生産した生産物を日本に「逆輸入」すれば、日本国内で中国からの外国人労働者を雇うのと同じ効果があるのである。
⑤日本大企業の中国への進出と、日本の産業空洞化は、この為替構造の下で裏表の関係である。中国の労働者にとっては、日系企業の賃金は、自国企業より格段に高い。進出日本企業も「安い労働力」を使って製品をつくり、日本国内への「逆輸入」で大儲けできる。損をしたのは日本の労働者だけである。
⑥この日本の大企業の中国進出が本格化し始めた2000年初頭、2004年1月の日本共産党23回大会が開かれ、綱領が改定された。つまり、「日本独占資本の帝国主義的対外進出に反対」という文を綱領から削除し、中国を念頭に、途上国への日本企業の進出を事実上後押しする方針に転換したのである。
⑦忘れられないのは、不破哲三著『北京の五日間』(2002年、新日本出版社)だ。「赤旗」連載を本にしたものだが、「中国市場での立ち遅れは、日本でも大問題になりつつある」(P105)と、不破氏が中国側に、日本の大企業は中国進出を積極的に推進すべきとの主張を展開。綱領改定の伏線である。
⑧この時期から産業空洞化に反対する共産党系「大衆団体」の担当者に、共産党本部から圧力がかかり始めた。また、私が書いた日本企業の中国進出やその為替構造を告発する赤旗記事が、掲載後、編集局長を通じ、不破氏から意味不明な非難が来たり、掲載前に問答無用で撤回させられる事件も起こった。
⑨それでも、私が「産業空洞化」を告発する記事を書き続けたのは、大企業の中国進出についていけない下請中小業者の苦しみ、大企業の国内生産拠点の廃止などによる大量の労働者の失業、日本商社の中国への「開発輸入」で苦しむ農家の惨状が横行していたからである。党の変質が耐えられなかったのだ。
⑩悪戦苦闘の末、依願退職をしたのが2011年の東北大震災の直後。余震に備えた宿直の連続など、最悪の体調もあったが、それでも余暇を利用して書き上げた『円高と円安の経済学』の原稿を世に出したいという思いが勝った。退職1年後、出版にこぎつけたのが、この本である。
http://masato555.justhpbs.jp/newpage26.html
⑪諸悪の根源であった、中国を「社会主義をめざす国」とする綱領の規定が、今年1月の党大会で削除された。しかし、この規定によってゆがめられたのは、中国に対するリアルな見方だけではない。日本共産党の「国民が主人公」という立党の精神すらゆがめられた。いまからでもいい、真剣な総括が必要だ。
⑫きょう(7月14日)、『円高と円安の経済学』(かもがわ出版)のメールでの注文があった。ホームページに「在庫のお知らせ」を出してから初めてのことである。うれしい。まだまだ自宅には在庫がたくさん残っている。未読の方はぜひ、ご注文をお願いしたい。
http://masato555.justhpbs.jp/newpage26.html
⑬同じく拙著の宣伝になって恐縮だが、『極秘公文書と慰安婦強制連行』(三一書房)がアマゾン売れ筋ランキング(日中・太平洋戦争部門)で、ベスト50入りの41位。ありがたい。
https://amazon.co.jp/%E6%A5%B5%E7%A7…
⑭党創立記念日の志位演説は、いまさらの新自由主義批判。その、あさってを向いた議論が志位さんらしい。経済問題なら、もちろん、コロナで再び注目されてきた産業空洞化批判、あるいはグローバル化批判が本来のマルクス主義と思うが、それをかすりもしないところが笑える。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-07-17/2020071707_01_0.html
⑮共産党の名誉のために言っておくが、党の事実上の経済理論誌『経済』2020年7、8月号は、坂本雅子論文「空洞化・属国化の克服と新たな資本主義の模索を(上)」「同(下)」を載せている。論文を巻末に置くところに、2000年代に入りこのテーマをタブー視してきた同党の体質がうかがえる。
⑯「グローバル化・空洞化への危機感は、1990年代には政府に批判的な人々によって議論が高まった時期も幾度かあった。しかし2000年代に入り空洞化の危険性が現実化した時期になって逆に、批判は途絶えた」(8月号P135)云々。坂本雅子氏の批判はやわらかいが党がそれに甘えてはならない。
⑰深刻なのは、党の経済理論誌『経済』7、8月号に、同じ筆者の産業空洞化批判の論文が2回にわたって掲載されているのに、掲載以後に開かれた7月15日の党創立記念日で、経済問題をテーマにした党委員長演説が、それに言及しなかったことである。志位氏の不勉強ではなく意図的なネグレクトである。
⑱坂本雅子先生は、私が赤旗記者時代に取材したこともあり、当時、産業空洞化問題で意気投合したこともあった。しかし、私の著書は、本部勤務員であったこともあり、無残な弾圧にあった。坂本先生は党の専従ではないのでなんとか頑張ってこられたのだと思う。党の検閲の恐ろしさを甘くみてはいけない。
⑲産業空洞化問題を批判することは当時の綱領で「社会主義をめざす国」と位置付けていた中国の外資導入政策を批判することになり、綱領路線から逸脱する、との「批判」を受けた。「日本改革を永遠のかなたに棚上げするもの」という文句が、私の著書の原稿に投げつけられた党の「検閲官」の言葉である。
⑳労働者・国民のために献身する覚悟の党の専従(職業革命家)にとって「この本は日本改革を永遠のかなたに棚上げするもの」との「最高幹部」からの「批判」は、"お前の書いている本は国民のためにはならないクズだ”という殺し文句である。けっして忘れられない事件である。
㉑不破哲三『党綱領の理論上の突破点について』を読み返す。日本の大企業の中国進出(日本の産業空洞化)を「社会主義をめざす国が瞰制高地(かんせいこうち)をにぎり外国企業の導入政策で市場経済を活用」と高く評価した(P77~84)。2004年綱領はここまで「理論的」に誤ったのである。
㉒中国が外国企業を導入し資本主義強国になることを「新しい挑戦」とし「日本の未来…のためにも…期待を持って注目したい」(P84)とした文言こそ、産業空洞化を告発する拙著の原稿を「日本改革を永遠のかなたに棚上げするもの」となじる発想の根源だ。不破氏にその自覚がないことが深刻である。
㉓赤旗記者時代、私は不破さんに意見書をよく出した。ある日、編集局幹部が私を別室に呼んだ。「本部勤務員は、最高指導者の指示に無条件で従わなければならない。いちいち意見書なんか出すなよ。いやなら、フリーになったらどうだ」。この思考回路がタブー視の温床と思う。
黒坂真@rokuKUROSAKA
今晩は。「本部勤務員は最高指導者の指示に無条件で従わなければならない。いちいち意見書なんか出すなよ」という赤旗編集局幹部の指摘は、朝鮮労働党を連想させますね。このような方が中心になって赤旗を編集しているのですから、いつも論調が同じでつまらない紙面になる。思考の硬直化を感じます。
本当にそうです。彼は「最高指導者の指示は、意味がわかっても、わからなくても従うべきだ」とも言いました。私は、規約5条(六)を示し、党員としての権利を主張しましたが、「それは一般党員の権利であり、本部勤務員の権利ではない」と強弁。いやなら「一般党員になれ」(クビ)と脅しました。
【参考】党規約5条(六)「党の会議で、党のいかなる組織や個人にたいしても批判することができる。また、中央委員会にいたるどの機関にたいしても、質問し、意見をのべ、回答をもとめることができる」
㉔編集局幹部は続ける。「すべての情報が集中する最高指導者にしか党の意思決定はできない。役員でもない、本部勤務員・赤旗記者が最高指導者に意見を上げるなど、思い上がりもはなはだしい」。つまり、よらしむべし知らしむべからず。「最高指導者」が指示する方針に異論をはさむなどタブーなのだ。
㉕私の「意見書ファイル」から、日本大企業の中国進出へ賛成に転じた不破哲三氏への意見書を公表する。これが、例の編集局幹部が私を「別室」に呼んだきっかけになった。合わせて「北京の五日間」の当該記事も紹介。この記事につけられた写真に登場する3人に注目。その意味は、あえて言わない。
㉖この意見書でも触れているように、「赤旗」では当時、日本の産業空洞化反対の大キャンペーンをはっていた。その一つ、私が執筆した「シリーズ『空洞化を考える』」の3回連載の(上)を紹介する。
㉗「赤旗」掲載の「シリーズ『空洞化を考える』」3回連載の(中)も紹介。
㉘「赤旗」掲載の「シリーズ『空洞化を考える』」3回連載の(下)。
㉙ついでに、「赤旗」掲載の連載「シリーズ『経済再生』の条件」の記事「海外進出の動機――『大幅な賃金格差』を利用」(03年7月10日付)も、私が執筆したものだった。これらの「赤旗」の産業空洞化告発のキャンペーンをすべて引っくり返し、綱領まで改定してしまったのが不破哲三氏である。
㉚自国の労働者・農民の生命・利益に根本的に反する政策をとった、その国の共産党の指導者は、その誤りが明らかになったとき、どういう態度をとるべきか。不破哲三氏は、それが鋭く問われている。無視を決め込んだり、居直ったりするなら、その信頼は地に落ちるであろう。