アクセスカウンター

(2016年7月17日からカウント)


☆(リポート)「骨なし魚」の原産地を訪ねて――中国・青島探訪記


連載③経済技術開発区に出発

 (2013年11月15日初稿、何回かの改定後の12月15日に確定)
       経済ジャーナリスト・今田真人


東京都の面積に匹敵

 3日目は、朝から、膠州湾を挟んで西側に広がる青島市の経済技術開発区(旧・黄島区、略称・開発区)を見学した。
 この開発区は、青島市のホームページなどによると、中国政府が1984年に「改革開放政策」の一環として指定した14の都市の地区の一つで、外資と技術の導入を目的に様々な優遇措置がとられている。
 このため、同開発区には日米欧韓などの外国企業の工場の立地が集中している。
 なお、青島市という名前のイメージから、日本の市を想像すると間違う。青島市というのは、6区4市で構成される大規模な都市である。青島市の全市面積は1万1282平方キロメートル、人口766万人になる。日本でいえば、市というより県という方がふさわしい。
 また、開発区の面積は2120平方キロメートル、人口は116万人に及ぶ。東京都の面積は2187平方キロメートルだから、開発区だけで、ほぼ東京都の面積に匹敵する広さだ。
 青島市の中心の新・旧市街地から膠州湾を渡って同開発区に行くには、膠州湾にかかる北の大橋(膠州湾大橋)か、南の地下トンネル(膠州湾トンネル)かの、2つのコースがある。(地図参照)
 膠州湾大橋は、日本の本四架橋並みの巨大さで、膠州湾トンネルも関門トンネルのような長さ。いずれも通るだけで30分前後かかる。
 今回、行きは膠州湾トンネル、帰りは膠州湾大橋を通った。


事前に関係者の話を聞く

 まず、午前中、日系企業の進出状況に詳しい、青島在住の日系企業関係者の日本人男性を訪ね、レクチャーを受けた。
 彼によると、青島市がある山東省は、人口が9700万人で、農産物輸出額は中国国内の省レベルでは一位を誇る。また、石油が産出されるので、工業としては省として「自給自足」ができる経済的に豊かな地域だという。
 青島の日系企業は登録されているものが約800社あり、うち、青島日本人会に登録しているのが約400社になる。
 うち、食品・繊維関係の日系企業が多く、食品120社~130社、繊維100社強である。その他、流通サービス、機械鉄工などがある。
 山東省の水産加工関係で大きな日系企業は、マルハニチロ、日本水産(通称・ニッスイ)、加ト吉(現JT子会社・テーブルマーク)、理研ビタミン、ニチレイなどがある。


反日暴動や大気汚染、円安の影響

 昨年の反日暴動による日系企業の被害は、経済技術開発区のジャスコ(現・イオン)や、パナソニックが被害に会い、同区内の「保税区(輸出入の関税がかからない外国企業優遇地域)」の日系企業の被害も多かった。
 しかし、現在ではジャスコやパナソニックはきれいになったという。
 水産関係の日系企業の山東省への進出状況は、数字的にはつかめないが、同省威海市に日系の中小水産加工の企業が多い。
 山東省在住の日本人は3000人弱で、うち、青島市に2000人弱が住んでいる。しかし、最近は減少傾向になる。
 減ってきている山東省在住の日本人のかなりの部分が、日系企業の社員の家族である。その理由がこのところの大気汚染だ。つまり、家族連れが減って、単身赴任が多くなっている。
 青島日本人学校(私立)の経営も苦しい。小学校から中学校まであるが、生徒数は最高時の100人からいまは80人ぐらいになっている。
 理由は、昨年の反日デモと人件費の高騰の日系企業への影響がある。
 食品・繊維など伝統的な加工産業をする日系企業は、これらの理由に加え、最近の円安で非常に苦しくなっている。
 円安は古い加工貿易産業には打撃になっている。「チャイナ・プラス・ワン」ということで、中国の他に、人件費の安いベトナムなどに進出する動きがある。
 あとは、中国内陸部の人件費の安い地域に進出する動きがある。その典型が自動車産業。昨年かなり減ったが、いまはかなり回復した。
 青島には日系の自動車の完成品メーカーはないが、部品製造はある。自動車関連は、ほとんど中国国内に売るので、円安の影響はない。むしろ、日本国内からの部品の輸入は円安で安くなるので、メリットがある。


毎年10%以上の賃上げ

 山東省の労働者の賃金でいえば、毎年10%程度上がっている。中国政府は2020年に2倍にするといっている。
 日系企業にとって、額面の賃金だけでなく、社会保障費の企業負担分を含めれば、人件費は賃金の額面の1・5倍になる。
 とくに2008年に労働契約法が改定され、解雇時の退職金を支払う義務が生じたのが大きい。この改定は、かなり画期的で、経営側には負担が重くなっている。
 山東省の労働者の賃金は表面上、日本と比べてまだまだ低いが、実際はそれほど安くはなくなっている。とくに水産関係の仕事は、3K(きつい・きたない・きけん)なので、いまの中国の若者も避ける傾向があり、人手不足で賃金は一般よりむしろ高くなっているという。
 中国にハローワーク(職業安定所)はないが、専門のサイトや新聞、口コミで労働者は応募してくる。一般の工場には自転車で通う労働者が多い。大きな企業には労働者の寮がある。
 青島郊外のアパートの建設が目立つが、あれは人が住んでいない投機対象のものも多い。
 労働者は、工場近くの普通のアパートに住んでおり、昔のような人民公社のシステムは、いまはほとんどない。
 以上が、レクチャーの概要である。


撤退したくても撤退できない状況

 どうも、青島に進出している水産加工貿易などの日系大手企業は、反日暴動や大気汚染、円安、賃上げなどのマイナス要因ばかりが重なっているようだ。
 しかし、日系大手企業はすでに、現地に多大な設備投資をしている。労働契約法改定で解雇時の退職金支払いの義務化もあり、撤退したくても撤退できない状況に陥っているというように思える。
 いずれにしても、この開発区の中に、今回、私の行先の一つ、ニッスイの水産加工工場「山東山孚日水有限公司」がある。


【中国語の地図】膠州湾(中国語で胶州湾)の西側一帯から地図の下端の先までが開発区。★印はニッスイの「山東山孚日水有限公司」の所在地


膠州湾トンネルに入る前、道路北側に見えた青島港の一部=2013年10月23日午前、中国・青島市



膠州湾トンネルの中=2013年10月23日午前、中国・青島市


開発区内に林立する高層アパート群=2013年10月23日午前、中国・青島市


開発区から市の中心部にかかる膠州湾大橋。大気汚染がひどく周りがほとんど見えない=2013年10月23日午後、中国・青島市



膠州湾東側に広がる青島港のコンテナターミナル=2013年10月23日午後、中国・青島市

連載④につづく


☆各回へのリンク
 連載①3泊4日の旅の動機
 連載②不安いっぱいの旅
 連載③経済技術開発区に出発
 連載④骨なし魚工場に到着
 連載⑤中国と日本の賃金格差

☆ページトップに戻る
☆トップページに戻る