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(2016年7月17日からカウント)


☆(リポート)「骨なし魚」の原産地を訪ねて――中国・青島探訪記


連載C骨なし魚工場に到着

 (2013年11月15日初稿、何回かの改定後の12月15日に確定)
       経済ジャーナリスト・今田真人


反日暴動で襲われたジャスコで昼食

 膠州湾トンネルを抜けて青島市の経済技術開発区に入ると、ちょうど、昼時になったので、日系企業のジャスコ(イオン)内にある中華料理屋で食事をということになった。
 この日の日程については、旅行会社とはあらかじめ、開発区の水産加工工場など、日系企業を外から見学したいという打ち合わせだった。
 ところが、ジャスコなど、昨年の反日暴動で襲撃された日系企業も見てみたいと私が言うと、旅行会社の運転手やガイドは、かなり動揺。「あぶないから」「まだ壊されたままだから」と言う。
 青島市のジャスコは、開発区だけでなく、青島市の新市街地にもあるので、「そちらでいいのでは」という旅行会社に従って、午前中は、そちらに行き、外の駐車場からそっと見学したぐらいである。
 しかし、青島在住の先の日系企業関係者が「開発区のジャスコも、もうきれいになっている」と話していたと伝えると、やっと安心して、行ってもらうことになった。
 開発区のジャスコに入ると、中国人の買い物客で結構にぎわっていた。昨年、襲撃された痕跡はほとんどない。
 私たちは店内の食堂街にある日系の「味千ラーメン」店(屋号が日本語で書かれている)でラーメンなどを食べた。
 日本と違って、最初に代金を払って領収書をもらい、それでひたすらテーブルに料理が運ばれるのを待つという方式だ。ともかく、この方式のため、中国人運転手が注文した釜揚げうどんは、運ばれてくるまで相当時間がかかり、運転手は怒っていた。


ニッスイの工場「山東山孚日水有限公司」

 食事を終えると、いよいよ日本水産(ニッスイ)の水産加工工場「山東山孚日水有限公司」に向け、出発。
 しかし、あらかじめ調べていた住所は地図にはないようで、運転手はいろいろな場所で車をとめ、詳しそうな中国人に道を聞く。
 やっと目指す工場に通じる道路の名前「昆侖山路」が、実は中国の代表的家電メーカー大手のハイアールにちなんで「海尓(ハイアール)大道」と改称されていることがわかった。
 ちなみに、ハイアールの本社所在地は、ここ青島なのだそうだ。中国人女性ガイドは、そのことを得意そうに説明してくれた。
 確かに、道路の節々に、「海尓(ハイアール)大道」と書かれた記念碑が立っている。
 この道路を北へ30分ぐらい走ったところで、右側に目指していたニッスイの工場があった。
 工場の道路側には、昨年の反日暴動の影響か、赤い中国国旗らしきものが掲げられている。
 日本人がいれば、あいさつ程度をしようと、中国人ガイドを伴って守衛室に行く。中国人の責任者に連絡されたが、時間がないということで面会は断られた。そのため、私の名刺を置いてきた。
 その10分ぐらいの間、工場の労働者らしい若い女性や男性が一人、また一人と、ICカードを守衛室のチェックボードに掲げながら、正門から出て行った。午後2時すぎなので、まだ、多くの労働者は就業中であろう。
 この工場は、海岸からかなり離れた広大な工場地帯に位置している。近くには、高層のアパート群が立つ。労働者はそういうところに住んでいるのだろう。


何をつくっているのか

 ニッスイの東京本社広報には、事前の取材申し込みをしていたが、「そういう現地取材の実績がなく、即答できない」と言われていた。「とにかく一度現地に行きますから」と押しかけていった形だから、工場内の見学は初めから期待していなかった。門前払いもしかたない。
 ところで、このニッスイの水産加工工場は、何をつくっているのか。
 ニッスイ本社のホームページでは「水産・食品加工品の製造」と説明されている。
 また、「ニッスイ業務用食品――主要商品のご案内」というパンフレット(下記のPDF3つを参照)が掲載され、「凍魚――骨なし切り身/骨取りフィレー」という項目がある。
 そこには「アジ」「ほき」「メルルーサ」「さわら」「まだら」といった魚を使った「骨なし切り身」「骨取りフィレー」の商品が紹介されており、それぞれに「中国でていねいに骨を取り除きました」と書かれている。
 日本に帰ってから、ニッスイの担当者に聞いてみた。
 同担当者は、「中国での骨なし魚の加工は、メインは山東山孚日水有限公司でやっている。ただ、最近、一部を同じ青島エリアの委託工場でもやり始めました」と説明する。
 いずれにしても、ニッスイの「骨なし魚」は、中国・青島の工場で、日本の消費者向けに加工され、コンテナに積んでトラックや船を使って、日本まで輸出されているという。


中国加工の理由は人件費の安さ

 日本の消費者が食べる「骨なし魚」がなぜ、こんなに日本から遠く離れた中国・青島市の開発区で加工製造されなければならないのか。なぜ、日本国内で日本人労働者を雇って加工しないのか。
 この疑問をぶつけると、ニッスイの担当者は次のように強調した。
 「確かに、為替も悪いので(円安という意味らしい)、人件費などのコストはだいぶ上がっていますが、それでも国内よりは安く加工できますからね。骨なし魚の加工では、大きな骨は簡単にカットできても、どうしても小さい骨がたくさん残る。それをピンセットでていねいに取り除く。これを日本国内でやれば、加工賃が大変な値段になってしまう。日本国内で中国並みの加工賃でできるというところは、私は、聞いたことがありません」
 では、その中国・青島の人件費は、日本と比べてどれだけ安いのか。
 それを次に見てみよう。


昨年、反日暴動で襲われたジャスコ=2013年10月23日昼、中国・青島市の開発区



道路の中央のいたるところに建つ「海尓大道」と書かれた記念碑=2013年10月23日午後、中国・青島市の開発区



ニッスイの水産加工工場「山東山孚日水有限公司」=2013年10月23日午後、中国・青島市の開発区


ニッスイの水産加工工場の道路側には、赤い中国国旗らしきものが掲げられている=2013年10月23日午後、中国・青島市の開発区


【ニッスイの中国製「骨なし魚」の業務用商品パンフレット】

表紙(PDF)
骨なし魚1(PDF)
骨なし魚2(PDF)


連載Dにつづく


☆各回へのリンク
 連載@3泊4日の旅の動機
 連載A不安いっぱいの旅
 連載B経済技術開発区に出発
 連載C骨なし魚工場に到着
 連載D中国と日本の賃金格差

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