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(2016年7月17日からカウント)


☆(リポート)「骨なし魚」の原産地を訪ねて――中国・青島探訪記


連載D中国と日本の賃金格差

 (2013年11月15日初稿、何回かの改定後の12月15日に確定)
       経済ジャーナリスト・今田真人


青島市の中心街に「乞食」

 10月23日夕方、開発区から青島市中心市街地のホテルに帰った私は、旅行会社のガイドと別れ、ホテルの周辺を一人で散歩してみた。
 目的は、前日、旅行会社の中国人ガイドに連れていってもらった市内の大きな本屋にもう一度行き、中国語の地図を買うことだった。中国語がわからないので、それも大仕事なのだ。でも何事も経験である。
 その目的は何とか果たしたのだが、ホテルへの帰り道で、お年寄りの男性の「乞食」を見たことが強烈な印象に残った。
 高層ビルが立ち並ぶ青島市の中心市街地の歩道。夕暮れ時で、帰宅を急ぐサラリーマンらに合わせて歩いていると、黒いビニールで覆われた丸太のようなものが交差点近くの歩道に横たわっていた。
 初めは、材木のようでもあり、足早に通り過ぎたのだが、気にかかったので、引き返して、よく見ると、黒いビニールの覆いに丸い穴があき、そこにお年寄りの男性の顔を発見。そのすぐ前にお金が少し入ったお椀が置かれていたので、それとわかった。
 中国人のだれもが気にせず、通り過ぎていく。やはり貧富の格差の広がりを感じずにはいられない情景である。
 翌日の午前中も、ホテルの周辺を一人で散歩したが、やはり、中心市街地の歩道に、今度はお年寄りの女性の「乞食」がお椀を持って座っていた。
 私は10年前の2004年8月に、中国・北京に行ったことがあるが、そのときにも北京市の中心官庁街で、少女の「乞食」に出会った記憶がある。
 中国の貧富の格差は、依然として大きいことを実感した。
 ちなみに、中国の生活保護制度は存在するようだが、どの程度機能しているのか、気になるところである。日本語ガイドの中国人女性は、さかんに日本の生活保護制度のことを私に聞いて、うらやましがっていたから、あるいは、同制度は事実上、ないのかもしれない。
 中国は、共産党が権力を握る国だが、少なくとも国民の生活は、社会主義とはいえないようである。


日本の賃金の4分の1

 以上の現地訪問を踏まえて、あらためて中国と日本の労働者の賃金格差を調べた。
 経済産業省の外郭団体の日本貿易振興機構(ジェトロ)の資料によると、中国山東省の従業員平均賃金は、ここ5年間、毎年10%以上の伸びを続け、2011年の従業員平均賃金は年間3万8114人民元になっている。
 この傾向が2012年、2013年も続くとして、前年比上昇率を13%として試算すると、中国山東省の従業員平均給与は2012年年間4万3069人民元、2013年は年間4万8668人民元となるだろう。
 しかし、この山東省の平均給与額は、円と人民元の為替レート(市場レート)で円に換算すると、月額で2012年は4万9132円、2013年は6万5260円にすぎない。
 これは、日本・横浜の一般工職の労働者の平均賃金に比べて、2012年で17%、2013年で23・4%という結果になる。
 最近の円安傾向や中国の著しい賃金上昇を勘案しても、円に換算すると、中国山東省の労働者の賃金はまだ、日本・横浜の4分の1程度の水準にしかならない。


日本に比べて貧しいわけではない

 日本に比べて、4分の1以下という中国の平均的な賃金水準は、中国の労働者が貧しいということを意味しない。
 山東省青島市の物価水準は、ジェトロ資料では、2013年現在、コメ1`が19人民元(円換算約260円)で日本の約600円の3分の1程度である。
 タクシー初乗りが9人民元(円換算約120円)で日本の710円の6分の1程度。
 電気代が1キロワット時0・546人民元(円換算7・37円)で日本の18・89円(東京電力)の4割程度。
 水道代が1立方メートル2・5人民元(円換算33・75円)で日本の245・7円(東京都水道局)の7分の1程度などなど。
 中国・青島の物価は平均すると、賃金と同じように、日本の4分の1程度か、あるいは、もっと安い傾向を示している。
 このことは、賃金が為替レート(市場レート)で換算して、日本の4分の1程度であったとしても、中国山東省の労働者の生活水準(購買力平価で換算した物価)は、日本と同程度か、あるいは日本を上回る水準になっていることを示している。


日本の産業空洞化への流れを止める岐路

 これが、私が主張する「市場レートと購買力平価の乖離」による問題である。詳しくは、私の著書『円高と円安の経済学――産業空洞化の隠された原因に迫る』(かもがわ出版)を参考にしてほしい。
 中国・青島の訪問で見聞した中国経済と日中の賃金格差の縮小はまだまだ、日本企業の中国進出と、その水産加工製品(メイド・イン・チャイナ)の逆輸入の流れを、止めるほどのものではない。
 この賃金格差は、10年、20年、同じような傾向が続けば、なくなるかもしれない。
 しかし、それは、10年、20年という長期にわたって、日本の産業空洞化が続くことを意味し、それまでには、日本経済は崩壊してしまうだろう。
 いま、日中間は、日本の産業空洞化への流れを止める岐路にさしかかっているのではないだろうか。その解決策の実行が急がれる。


中国山東省と日本の年間賃金比較

〈注〉中国山東省の賃金は、ジェトロ青島事務所「山東省概況(2012年5月改訂版)」から。 為替レートは、各年12月末の営業日のレート(中国人民銀行のHPから)。 2012年と2013年は毎年の賃金上昇率を13%として試算。 2013年の為替レートは、2013年11月7日現在のもの。 日本・横浜の賃金額は横浜市人事委員会「民間給与の実態」から。


(上のグラフのバックデータ)

★中国・山東省の労働者の賃金の推移(2012年・2013年は試算値)

山東省(年間、単位:元) 前年比上昇率
2007年 22,844 18.8%
2008年 26,404 15.6%
2009年 29,688 12.4%
2010年 33,729 13.6%
2011年 38,114 13.0%
2012年 43,069 13.0%
2013年 48,668 13.0%

★円に換算した中国・山東省の労働者の年間賃金(2012年・2013年は試算値)

人民元/100円 山東省年間賃金(単位:円)
2007年 6.4064 356,581
2008年 7.5650 349,028
2009年 7.3782 402,375
2010年 8.1260 415,075
2011年 8.1103 469,946
2012年 7.3049 589,588
2013年 6.2146 783,120

★円に換算した中国・山東省と日本・横浜の労働者の月額賃金の比較(2012年・2013年の山東省の賃金は試算値)

山東省 日本・横浜 山東省/日本・横浜
2007年 29,715 313,969 9.5%
2008年 29,086 287,387 10.1%
2009年 33,531 282,306 11.9%
2010年 34,590 293,636 11.8%
2011年 39,162 295,385 13.3%
2012年 49,132 289,574 17.0%
2013年 65,260 279,463 23.4%


市の中心街(新市街地)に建つ青島市市役所の建物=2013年10月24日午前、中国・青島市



市の中心街(新市街地)の高層ビル群。この日午前は大気汚染は少し改善=2013年10月24日午前、中国・青島市



市役所前の「五四広場」で太極拳をする中国の人たち=2013年10月24日午前、中国・青島市



市内には日本のコンビニ・セブンイレブンの店も=2013年10月24日午前、中国・青島市


青島国際空港(青島流亭国際空港)=2013年10月24日昼、中国・青島市


(連載おわり)


☆各回へのリンク
 連載@3泊4日の旅の動機
 連載A不安いっぱいの旅
 連載B経済技術開発区に出発
 連載C骨なし魚工場に到着
 連載D中国と日本の賃金格差


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